- 2023.09.07
弁護士による賃貸法律相談室
保証会社の活用と家賃滞納による契約解除の関係
昨今の新規賃貸借契約の締結においては、個人の連帯保証人を立てずに、家賃保証会社(以下、保証会社)の利用を条件とする契約が増えています。保証会社を利用した場合、万が一賃借人が賃料を滞納した場合でも、保証会社が滞納家賃を賃貸人に支払い、その後保証会社が賃借人に求償請求をする、という流れで進むことが一般的です。このように賃貸人側としては、個人の保証人を設定するよりも賃料の回収が図れる可能性が高いというメリットがあります。
他方で、賃借人が賃料を滞納しても、すぐに保証会社が支払ってくれるため、賃貸人から見れば賃料の滞納額は積み上がりません。家賃を滞納して保証会社に立て替え払いさせる、ということが常態化しているような賃借人が現れた場合に、賃貸人としては、賃料の滞納を理由として賃貸借契約の解除ができるのか? という疑問が生じてき
ます。
裁判実務においては、建物の賃貸借契約の解除が認められるためには、賃料の滞納分が3カ月以上に及んでいる、というのが一般的な基準となっています。仮に賃借人の家賃滞納が3カ月以上の長期間となり、賃貸人として信頼関係が失われたとして解除したいと考えたとき、保証会社によって形式上は滞納額が残っていない場合でも契約を解除ができるか、という問題です。これが争点となったのが、大阪高等裁判所平成25年11月22日判決の事例です。この判決の事案の概要は以下の通りです。
- 平成23年12月15日、月額賃料7万1,000円、共益費5,000円、水道代2,000円とする賃貸借契約を締結し、その10日後の12月25日、賃借人は保証会社と保証委託契約を締結した。
- 契約からわずか2カ月後の平成24年2月以降、賃借人は賃料の滞納を繰り返すようになり、平成24年4月分から8月分までを滞納した。
- そこで賃貸人は、平成24年9月に訴状で賃貸借契約解除を通知、建物明渡し訴訟を提訴した。
- 賃借人はその後も賃料の滞納を続け、平成25年3月分まで一年分の賃料を滞納した。
- なお滞納賃料は、その都度保証会社により賃貸人に支払われている。
訴訟において賃借人側は、「滞納した賃料は保証会社が立て替えて払っているのだから、結果的に賃料の滞納はない。」と反論して、賃貸借契約の解除と明渡しについて争いました。
この事案に裁判所は、賃料の不払いを理由とした賃貸人からの賃貸借契約の解除を認めました。解除を認めた理由について裁判所は以下のように述べています。
「本件保証委託契約のような賃貸借保証委託契約は、保証会社が賃借人の賃貸人に対する賃料支払債務を保証し、賃借人が賃料の支払いを怠った場合に、保証会社が保証限度額内で賃貸人にこれを支払うこととするものであり、これにより、賃貸人にとっては安定確実な賃料収受を可能とし、賃借人にとっても容易に賃借が可能になるという利益をもたらすものであると考えられる。」
「しかし、賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払いは代位弁済であって、賃借人による賃料の支払いではないから、賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり、保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当でない。なぜなら、保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって、これにより、賃借人の賃料の不払いという事実に消長を来すものではなく、ひいてはこれによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかである。」
裁判所の考えを簡潔にまとめると、保証会社による立て替え払いは、賃借人による賃料の支払いではないので、賃借人によって賃料が支払われない限り賃借人の債務不履行と評価すべきである、というものです。同種の事案についての最高裁判例はまだありませんが、同様の結論を取る裁判例は複数出ていますので(福岡高等裁判所平成28年2月29日判決、東京地方裁判所平成27年7月16日判決等)、裁判実務としてはこのような判断が固まりつつあると言えるでしょう。
なお、保証会社を利用する賃貸借契約においては、賃料を一定期間滞納した賃借人に対し、保証会社による賃貸借契約の解除権を認める旨の契約条項を設定するという場合もあります。したがいまして、賃貸人としては万が一、賃料の滞納を繰り返す賃借人が現れた場合は、契約の解除等含め、保証会社と対応を相談して進めることになるケースが多いと思われます。
新型コロナ収束後に入居者需要は変化したか?
オフィス回帰傾向でテレワークはどうなる?
コロナ禍では、人との接触を避ける新しい生活様式が採用されました。なかでも会社に通わず自宅で業務を行う「テレワーク」(リモートワーク)が多くの企業で導入されてきました。しかし、昨年末から社員の出社頻度を高める企業が増え出して、オフィス回帰という言葉を耳にする機会も増えてきました。やはり、テレワークは一時の緊急対応だったのでしょうか。実は、そうとは言いきれない調査結果が発表されています。お部屋探しにも大きな影響があるテレワークの現状について調べてみました。
着実に根付いたテレワークできるお部屋探し
333社の賃貸不動産仲介店舗に、2023年1月〜3月の賃貸繁忙期についてアンケートをとったところ、お部屋探しのお客様の中にテレワークが根付きつつある現状が見えてきました(調査機関=リーシング・マネジメント・コンサルティング)。調査ではお客様の3割以上が、コロナ収束近い3月にかかわらず、テレワークを想定した部屋探しをしていたことが分かりました。このテレワークを意識したお客様は店舗によって差があり、来店客の「1~2割程度」と答えた店舗が38.1%、「3~4割程度」が36.9%、「5割以上」も8.4%ありました。テレワークを求める割合は、昨年12月の調査時よりもわずかに減少していますが、コロナ収束後もテレワークが、お部屋探しに影響を及ぼしていることが見てとれます。
一方、コロナ禍でテレワーク需要が増えていた2020年から2022年当時のお部屋探しの特徴として、出社することが少なくなるという理由で、「とくに駅近を重視しなくなる」という要素がありました。こちらについてのニーズの変化は、単身者とファミリー層で違いが見えてきました。今回の調査によると、お客様のうち「駅近物件を好む人の割合」について聞いたところ、単身世帯では全体の39.9%が「駅近物件が好まれるようになった」と答えているのに比べ、ファミリー世帯では19.8%に留まっています。それどころか、ファミリー世帯では「駅から遠いことはあまり気にしなくなった」が21.9%にのぼり、駅近
物件を好む人の割合を上回る結果となっています。
コロナ収束のあともファミリー層では、お部屋探しの傾向として、コロナ禍で生まれた「テレワークできること」「とくに駅近を求めない」という要件が消えてはいないようです。
子育て層の約9割がテレワーク継続を希望
リノべる株式会社(東京都港区)が行った調査によると、現在テレワークをしている子育て層の89.1%が、今後もテレワークを続けたいと考えているようです(大都市在住で育児をしている人=265名に調査)。コロナ禍が始まった2020年の調査では、自宅の中の仕事場として使用している場所は2~3カ所と、場所が定まっていない状態だったのに対し、2023年は1カ所に固定出来ている人が75.6%に増えています。テレワークに慣れてきた様子が見てとれます。
では、自宅内のどこを仕事場としているのでしょうか?実は、こちらにも変化がありました。2020年の調査では、1位は「ローテーブル」(36.6%)、2位は「ダイニングテーブル」(35.7%)、3位はソファ(30.4%)でした。これが2023年になると、1位が「ダイニングテーブル」(36.1%)、2位「個室の専用ワークスペース」(30.1%)、「寝室などの個室」(21.8%)という結果となり、仕事場の個室化が進んでいることが分かりました。
この数年の間にテレワークに適した個室のある家に引っ越した人も多かったのかもしれません。ちなみに、「ベランダ」(2.3%)でテレワークしているという少数派もいました。
国によるテレワーク推進は継続中
オフィス回帰の流れは進んでいますが、子育てしながら働く人たちの中では、テレワークを含めた柔軟な働き方への需要は減少していません。転職エージェントとして活動する40代男性は、「コロナの5類移行を受けて、原則出社と決めた企業が増加してから、転職サイトへの登録者が昨年に比べて5倍以上に増えた。多くが子育て世帯の方で、リモートワークができる会社を希望しています」と言います。
また、国家公務員の働き方を管轄する人事院ではテレワークを支援するために、自宅の光熱費や水道代などの相当分をサポートする「在宅勤務等手当」(仮)を検討しているようです。このように、国によるテレワーク推進はまだ続いているのです。テレワークに適した設備を持つ部屋の賃料動向や入居率など、賃貸オーナーが特に気になる部分についての調査は少なくデータは不足しています。この新しく生まれたニーズについて注視しながら、役立ちそうな情報をお伝えしていきます。
少額のリフォームに迷った時の判断基準とは?
Q.築20年のマンション(平均家賃8万円で20世帯)を相続した新米大家です。貸室のリビングには10畳用エアコンがついていて、隣接の洋室は間に合うのですが、寝室用の洋間にエアコンがありません。空室が出たので設置を検討していますが、費用対効果などの考え方を教えてください。
A.熱中症の4割が室内で起きているそうですから、寝室にエアコンは必須となりましたね。エアコン工事は10万円くらいで可能なので決断は難しくありませんが、50万円のリフォームの場合はどうなのか? と判断に迷う時もありますよね。その基準や考え方についてお話しいたします。
賃貸経営の目的と考え方が大事です
まず、オーナー様の賃貸経営に対する目的や考え方によって答えは異なります。たとえば、30年前に同じ仕様で建築された賃貸マンションが2棟あったとします。1棟は、壊れた箇所を修理する以外は何も手を加えていません。もう1棟は、耐用年数ごとに設備を最新にして、10数年ごとに外壁や鉄部を塗り替え、各室にエアコンを取り付け
ています。
この2棟の現況は、前者は4万円で後者は8万円の平均家賃で経営されています。さて、どちらの方が望ましいでしょうか?答えは「どっちが望ましいということはない」です。
前者の老朽化マンションで需要があるなら、満室近い経営が可能かもしれず、費用をかけていない分、収益が確保されているかもしれません。ローンが終わっているならキャッシュも残るでしょう。では、前者の経営を勧めているのか、というと、そうではありません。
一般的には、老朽化マンションの入居需要は少ないですし、建物本体の寿命も短くなります。これから高額な修繕費が降りかかるので、あと30年の経営は困難だと思います。最初から築40年で取り壊す、という目的なら、このような経営も選択肢のひとつではあります。築20年のマンションを相続された質問者様は、これからどんな経営をしたいのか、30年後のマンションがどうなっていて欲しいのか、一度考えてみてはいかがでしょうか。
投資に見合うかどうかで判断できます
10万円のエアコン設置に話を戻しましょう。設置することで家賃を3,000円上げられるなら10万円は約3年で元がとれる計算です。その後も3,000円の増収を数年は稼げるので良い投資だと思います。ただし、すぐに部屋が決まるという前提です。エアコンを設置し家賃据え置きで募集した時に、「寝室にエアコンなし」より1ヶ月早く決まるなら、家賃8万円分の増収で80%は回収できます。
その後は借主さんの満足が続くので、こちらも良い投資だと思います。両方とも「すぐに決まる」という前提ですが、こればかりは予想するしかありませんね。広告で「熱中症対策…」のようなアピールができるところが有利だと思います。
これは乱暴な提案ですが参考までにお読みください。寝室にエアコンのない世帯にも、このタイミングで設置してあげてはどうか? というアイディアです。
たとえば5世帯は自前で設置していて、残り15世帯が未設置だとすると総額150万円の投資です。まとめて発注すれば工事の手間と時間が浮くので10~15%くらいは安くなるかもしれません。家賃も据え置きでよいと思います。
「要求されてもいないのに、そんなお金をかける必要があるか」と思うかもしれませんが、入居者さんが要求しているのは明らかだと思います。もしオーナー様が、これから退去のたびにエアコン設置に費用をかけるなら、入居中のお客様に喜んでもらえる今の方が賢いお金の使い方ではないでしょうか。青色申告なら、すべて今期の経費として計上もできます。あくまでも参考意見ですが…。
“強み”を活かした広告をしてください
では、50万円のリフォームの場合はどうでしょうか? 和室を洋室に、壁や襖にオシャレなクロス、古びたキッチンや洗面台に表層、などのリフォームを検討したときの判断基準です。エアコンの5倍ですが、家賃の値上げを5倍(15,000円)にするのは無理があります。投資の回収に5年から10年はみる必要がありますし、10年たてば投資した価値はゼロに戻るかもしれません。リフォームしてもすぐに部屋が決まるという保証もありません。
しかし、広告で訴えることができる“強み”を手にしたのですから、それを活用すれば早く決まる可能性は高くなるはずです。でも迷うところですね。この判断の助けとなるのが、前述した賃貸経営の目的や考え方です。物件を「どんな状態で維持したいのか」という想いです。費用をかけず家賃の値下げで借主確保するのも、貸室のレベルと家賃を維持するのも「どちらもアリ」なのです。
ただし20世帯の中で、何も手を付けない部屋と、手をかけた部屋と、300万以上の高額リノベの部屋が混在するのはお勧めできません。賃貸経営の方針が定まっていない結果ですね。所得や家族構成などがバラバラなので管理も難しくなります。
さて、このマンションは亡くなられたお父様がポリシーを持って20年経営されたと思いますが、これからの20年40年を「どうありたいか」について考えられてはどうでしょうか。10万円のエアコン設置の答えは簡単に出せると思います。
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