2023.11.09

2023年11月の賃貸経営管理ニュース

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築古物件のリノベで配管交換すべき?

築年数を経た物件をリフォーム及びリノベーションする際に配管も交換しているでしょうか? 配管は、住まいにおいて重要な役割を果たしていますが、修復や交換が必要かどうかを見た目で判断するのが難しく、そのまま放置すると大きな損害が出る設備です。そこで今回は、「配管交換すべきかどうか」についてケースに分けて解説いたします。

本題に入る前に、一般的な賃貸アパート・マンションに設置されている配管の種類を確認しておきましょう。配管は給水管、給湯管、排水管、ガス管と大きく分けて4種類あり、それぞれの素材は建設された時期によって異なります。

2000年頃(平成10~12年頃)より前に建てられたアパート・マンションでは、給水管と排水管には鉄管が、給湯管とガス管には銅管が使われているケースが大半でした(銅管は100℃超の液体にも耐性があります)。鉄と銅には経年によって錆が発生するという欠点があり、そこから水漏れを引き起こす危険性があります。

一方で、上記の年代以降に建設されたアパート・マンションや、配管交換が行われた住居には、ポリエチレン管、ポリブデン管、ポリ塩化ビニル管が使用され始めていて、これらの素材は錆びることがないため、しばらくは漏水の心配がないと言われています。

つまり2000年頃より前に建設された物件は、いずれ漏水が起きてしまう可能性があるということになります。配管には寿命がありますので、完成から年数が経過している物件は漏水に備える事が重要です。もし2000年頃以降に設置された配管ならば、鉄管と銅管以外であることを確認したうえで目立った劣化が無ければ、当分は交換しなくても良いということになります。

「では、2000年頃より前に建てたアパート・マンションの配管は早く交換しなければ!」という流れになりますが、現実的には懸念すべき点もありますよね。まず工事費用の問題です。

配管を部分的に取り替えるのであればそれほど高くなりませんが、部屋全体の配管交換を行うと、お部屋の広さや、水道メーターから給湯器、キッチン、浴室の距離により、およそ30万~50万程度の費用がかかります。配管部分は借主からは見えないので、交換してもグレードアップにはならず、家賃アップには繋がりにくいでしょう。内装や設備のリノベーションのように工事費用を家賃アップで補うのも難しいのです。

配管に鉄管や銅管が使われていることが分かっているのに、そのままにしておくと漏水のリスクが年々上がっていきます。ひとたび漏水が起こると、最悪のケースでは借主の退去という事態になるため、家賃収入が途切れるという損失が起こります。退去を要しないケースでも応急処置は必須ですし、配管が露出したままの工事となるため見た目が悪くなります。

また、配管の場所によってはユニットバスを解体しなければ配管交換ができず、プラスの工事費がかかることもあります。

「漏水は火災保険でカバーできたはずでは?」と思われるかもしれません。実は、経年劣化によって発生した漏水による損害は補償対象にはなりません。また、壊れた部分を応急処置のまま放置し、完全修復されなかったことが原因で発生した漏水による損害も補償の対象外です。火災保険における補償対象は、あくまでも「偶発かつ突発的な事故」とされています。

以上のように配管交換は、ユニットバスやキッチンの交換を伴うリノベーションをするのであれば、併せて済ませておくことをおすすめします。あらかじめ配管素材を確認し、鉄管や銅管が使われているようなら一緒に交換してしまいましょう。

そして、突発的な事故や災害によって起こりうる損害にもしっかり対処できるよう、保険の加入や補償オプションの追加などを専門家に相談してはどうでしょうか。建物と設備は、建てた時から劣化が始まりますので、長い賃貸経営の中で修繕や取替え計画を立てておくことが重要だと思います。

基準地価からみる「半導体・インバウンド復活・鉄道整備」の影響

2023年9月19日に国土交通省が発表した基準地価から、半導体産業や鉄道路線の開業や観光客の増加などが、日本各地の地域経済と地価に影響を与えている実態を見ていきましょう。全国平均の地価は前年比1.0%の上昇でしたが、これはコロナウイルスの影響前にインバウンド観光で盛り上がっていた2019年の0.4%を上回る数値です。用途別に見ると、住宅地の地価は前年比で0.7%、商業地は1.5%でした。

北海道・熊本の地価上昇は半導体要因

北海道の千歳市、恵庭市、北広島市は、住宅地の地価上昇率で全国トップ10のうち9カ所を占める成長ぶりです。3市は札幌市に隣接しており、札幌のベッドタウンとして住宅地の開発が進んでいました。まず、北広島市に開業したプロ野球日本ハムファイターズの新本拠地の北海道ボールパークFビレッジは、観光資源の多い北海道のなかでも最もホットな観光地として注目されていて投資も続いているようです。

さらに千歳市では、トヨタやソニーなど国内大手8社が出資した半導体メーカー「ラピダス」の新工場建設計画が動き出して、隣接の恵庭市を含めた周辺に5兆円もの投資が予定されて、住宅や店舗などの需要増を見越して土地取引が活発になっています。千歳市は、住宅地の上昇率で全国ランキング1~3位、7位、8位、10位にランクインと、自治体レベルでは全国で最も勢いのあるエリアといってよいでしょう。

北海道の開発に詳しい不動産投資コンサルタントによると「もともと戸建て住宅の開発が盛んなエリアだったが、ラピダス効果でかなり勢いがついた。工場だけでなく最先端半導体の研究拠点も整備される予定で、海外から赴任する研究・技術者向けの高級住宅の開発も見込まれていて投資はまだ始まったばかり」と言います。地元の不動産会社によると一部の物件の家賃は、今年に入ってから2割も上昇しているそうです。

経済誌記者は「千歳市は空港が存在し、豊富な水資源と広々とした平坦な土地がある。約70ヘクタールの土地に工場建設が予定されているが、まだまだ拡大できるだけの余裕がある点が高く評価された。日本国内への半導体関連の投資はまだ続きそうで各地で招致競争が続いている」と語っています。

このように、全国1位の熊本県大津町や千歳市など、商業地の全国トップ10の半分以上が半導体生産拠点に関連しています。

インバウンドも復活の気配

海外の富裕層からの人気が高い長野県白馬村では、商業地が全国で7番目に高い地価上昇率を記録しました。多くの地域の山間部が過疎化している中、白馬村は逆に人口が3.16%も増えていて、長野県内で最も高い数字となりました。2021年から2022年にかけては、コロナウイルスの影響で白馬村に住む外国人が一時帰国しましたが、コロナの落ち着きとともに戻ってきていて、その動きが地価上昇に寄与していると考えられます。

岐阜県高山市は人口減少している中で土地価格が上昇しました。市内の90%以上が森林という地域ですが、古い街並みや温泉などの観光資源を目当てに外国人観光客が増加していて、市内中心部の商業地では複数のホテル建設計画があります。商業地地価が2022年は3.2%の下落だったものが、2023年は9.8%の大幅な上昇になりました。

宿泊などで地域を訪れる「関係人口」が増加し、地域の不動産を活用する人が増えることで、不動産価格が上がる傾向が各地で見られます。日本全体で人口が減る中で、関係人口がこれからの不動産ビジネスに大きな影響を与えそうです。

リニア・九州新幹線の影響

相模原市は市全体の平均上昇率が3.0%に達していて、前年の0.9%より高い数字になりました。特に橋本駅周辺は、リニア中央新幹線の進行に伴う地域開発と商業施設の増加が期待されているようです。リニアは工事の遅れから予定されていた2027年開業は困難な状況ですが、沿線の期待は高止まりしたままのようです。西九州新幹線(武雄温泉―長崎)の開業から1年が経ちましたが、こちらの沿線の地価にも明るい動きが見られました。

長崎県諫早市にある諫早駅周辺では住宅地が0.3%も上昇し、実に24年ぶりのプラスを記録しました。商業地も0.4%上昇して30年ぶりということです。駅前の再開発も地価上昇の一因とされています。

佐賀県武雄市でも住宅地が23年ぶりに上昇し、商業地も26年ぶりにマイナス圏を抜けました。このように新幹線の開業が地域経済の潮目を変えていることがわかります。

今年の基準地価には特に、半導体産業や鉄道路線の開業、観光客の増加が地域経済に与える影響が見えました。今後の不動産投資の方向性を考える上で重要なポイントとなりそうです。

更新契約実務と”よい賃貸経営”の関係は?

Q.親から築20年の賃貸マンションを相続した新米大家です。私の地域は「自動更新」という慣習らしく、私が引き継いでから借主さんとお会いして更新契約をしたことがありません。話に聞くと2年ごとに更新の合意文書を取り交わす地域もあるようですね。借主さんと定期的にお会いする機会もあった方がいいとも思うのですが、賃貸経営と更新の関係について教えてください。

A.賃貸借契約の更新は、「自動更新」と「合意更新」の2つの地域に分かれます。自動更新とは、契約で「〇年ごとに自動で更新する」と定められていて、更新作業は行わず金銭の授受もありません。合意更新は「〇年ごとに合意して更新する」となっていて、契約期限になると貸主と借主で合意文書を取り交わします。その際に「更新料」という名目で、借主から貸主へ、合意した新家賃の1カ月分が支払われるのが一般的です。地域別では、首都圏や京都・滋賀などが合意更新で、それ以外は自動更新とされますが、他にも合意更新の地域は点在していると思います(〇の部分は2年となるのがほとんどです)。

それぞれのメリット・デメリットは

自動更新と合意更新は貸主さんにとって、それぞれメリットとデメリットがありますね。合意更新のメリットの1つめは更新料という収入です。2年ごとに家賃の1カ月分の収入は大きいですよね。空室が増えて市場が借主優位となる中でも、まだ更新料への関心が低いのか、「礼金ゼロ」という条件と比べると、「更新料ゼロ」の普及は緩やかな印象があります。

2つめは、2年ごとに接点が持てるので、借主の近況や不便などを聞き出す機会が持てます。

デメリットは、更新通知が住み替えのキッカケになり得るということです。貸主側から・更新の合意文書を取り交わす・更新料として〇〇円が必要と通知が届くのですから、「だったら同じ広さで安い物件に住み替えようか」と考えるキッカケを生んでしまう可能性があるワケです。

自動更新のメリットは、入居後に家賃滞納やクレーム・トラブルがないかぎり、ほとんど手がかからないということでしょう。

デメリットは、あえて接触の機会を作ろうとしないと借主の近況が分からないということです。たとえば入居後10年の借主は、勤務先も家族構成も変わっているかもしれず、個人保証の場合は、その方が亡くなっているかもしれません。トラブルのない10年だったので「良かったじゃないか」とも言えますが、知らないうちに、独居老人世帯になっていた、ということが起こるかもしれません。

もうひとつのデメリットは、更新料という収入の機会がないことです。実は、昔は代替の収入機会があった、という話しがあります。

高額だった「保証金と敷引き」

慣習と言えば、契約時に授受される金銭で、地域で名称と性質が異なっていた代表的なものがあります。関西や西日本の「保証金・敷引き」と、関東などの「礼金・敷金」です。平成初め頃までの関西では、5万円の単身マンションの保証金が家賃の10カ月分相当、という高額のケースがありました。

たとえば、その保証金50万円のうち、解約・退去後に敷引きとして25万円を差し引く、というような条件でした。その敷引きで借主の通常使用による損耗の補修費用を賄うのです。この「関西で保証金と敷引きが高額だった理由」のひとつが「自動更新にある」という説です。

つまり、更新料という収入が得られない代わりに、高額の敷引き収入を充てていたという説です。まあ、この正否はともかくとして、高額の保証金・敷引きは、市況の下降に伴って下がり続け、現在では国内のほとんどで姿を消して「礼金・敷金」で募集されていますので、「保証金・敷引き」という貸主に収入をもたらす制度は消えて、「自動更新」という、更新料収入を得る機会のない慣習は残った、ということになりますね。

入居者に永く住んでもらうために

さてご質問の主旨は、経営を引き継いだ質問者様が、「借主とまったく接点がない」という状態でいいのか? ということですよね。その答えは「接点はあった方がいい」と思います。貸主側と借主の関係が良ければ、トラブルは小さく収まるでしょうし、永く暮らしてもらえるでしょう。大家さん自ら接触するか、不動産会社に任せるか、方法は選べます。「借主と知り合うことで直接に要望されるのは困る」ということなら、「貸主側」の立場で不動産会社さんに間に入ってもらえればいいと思います。

自動更新の地域でも、タイミングは「入居してから〇年が過ぎましたので」、ということで良いのではないでしょうか。「特に問題はございませんか?」というお尋ねとともに、同居人や勤務先などを記入する簡単な身上書的な書類を用意して、聞きながら書き込む、という作業になります。これから新規に入居される借主さんとの契約では、「2年ごとに更新する」としてもよいと思います。

その際に「事務手数料」として5,000円くらい徴収できれば、作業が増える不動産会社さんの収入も確保できます。更新を漫然と過ごすのではなく、「いまの入居者さんに永く住んでもらうため」の良い機会と捉えてみてはいかがでしょうか。