2024.03.07

2024年3月の賃貸経営管理ニュース

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その賃貸管理は賃貸経営のリスクに対応しているか?

父から築20年の賃貸マンションを相続した新米大家です。元旦の能登半島地震は大変に驚きました。TVでは、アパート等の倒壊や流失について報じられていませんが、一般住宅同様に被害に遭っているのでは? と思いました。父が加入した火災保険を調べたら地震保険には加入していないようです。アドバイスがありましたらお願いいたします。

まず、このたびの地震と津波で被害に遭った大家様にお見舞い申し上げます。日本のどこで賃貸経営されていても地震のリスクから逃れられないわけですから、基本的な備えとして地震保険に入るか、少なくとも内容を知ったうえで検討はしておくべきです。

事業経営というものには少なからずリスクが伴います。賃貸経営であれば、家賃の下落、空室の長期化、賃料の滞納、修繕・リフォーム費用の負担増加、建物内での事故や事件の発生、損害賠償責任に問われる、そして天災事変です。これらを私は「賃貸経営の7つのリスク」と捉えています。

賃貸経営をされるということは、これらのリスクの存在を知り、そのための対策を意識しておく必要があります。対策することで、被害をゼロにすることは出来ませんが、最小にすることは可能だからです。

不動産会社を活用する目的は大家様によって異なります。入居募集の依頼だけを目的としたり、賃貸管理を任せたり、サブリースで一切を委任する形態もありますね。ちなみにサブリースなら空室の長期化や賃料の滞納というリスクは排除できるわけです(代わりにサブリース会社の信頼性は? という課題が生まれます)。

さらに賃貸管理にも、賃貸経営に必要な作業代行がメインのものと大家様のリスク管理や収益までカバーしようとするものもあり、その内容には差があります。管理会社が提唱するメニューだけではその違いが分かりにくいですね。

お父様が選んだ不動産会社が、どのような賃貸管理を提供しようとしているのか、良い機会なのでチェックしてみてはいかがでしょうか?

願わくば、このたびの地震発生に対して、質問者の大家様が動く前に、管理会社の方から地震保険などの提案や報告があってほしかったのですが‥‥。

地震保険は火災保険選びが重要

基本的なお話しになりますが、地震保険は、地震・津波・噴火等によって被害を受けた住宅等の損害を補償する損害保険です。火災保険だけでは地震等の損害補償を受けることはできません。地震保険は単独で加入できないので火災保険とセットにする必要があります。

補償範囲は火災保険の保険金額の30%から最大50%までとなっています。損害が巨額になると一社だけで負担できるのか不安になりますが、地震保険制度は「地震保険に関する法律」に基づき政府と民間の保険会社が共同で運営していて、政府が保険金の支払責任を分担する「再保険」という形で成立っていますので、その心配は不要です。

法律により補償内容や保険料が決まっているということは、どの保険会社で加入しても違いがない、ということになります。しかし、元となる火災保険商品は各社で異なり特徴があります。

つまり、地震保険選びで重要なのは火災保険選び、ということになります。質問者様のお父様が、どのような火災保険を選んでいたのか、その内容を知っておくべきですね。

火災保険選びのチェックリスト

私から、どの保険商品がよい、というようなお勧めはできませんが、チェックリストとしては、以下の項目が挙がると思います。まず、地震保険に対応している「火災保険商品」かどうか。さらに、「火災補償」は当然ですが、台風や竜巻による「風災補償」、大雨や洪水による「水災補償」、不測かつ偶発的に起こる事故による「破損・汚損補償」などを付加できるか、などがチェックポイントになります。

そして、賃貸住宅オーナー向けの特約があるかどうかの確認も必要です。火災などで賃貸住宅が損害を受けた時に復旧までの家賃損失が補償される「家賃収入補償特約」、住宅内で孤独死などの事故が発生した時に補償される「家主費用補償特約」、建物の管理不備等の偶然事故のケガや破壊によって発生した法律上の損害賠償を補償する「賃貸建物所有者賠償特約(示談代行なし)」などですね。

この火災保険に地震保険がセットされていれば、賃貸経営の保険加入によるリスク管理としては申し分ないと思います。ただし、保険内容を充実させるほどに保険料という経費が増えてしまいます。言うまでもなく賃貸経営は事業ですから、使える経費には限りがあります。経費を惜しまずリスク管理を万全にしても、収益の出にくい事業体質では元も子もありませんね。

このバランスをみて決断していくのが賃貸経営だと言えます。現在の管理会社さんは、大家様のリスク管理や収益確保までも目的としているか、じっくりと検討することをお勧めします。

ペット可契約における損害賠償請求

退去時の賃借人の原状回復義務は、経年変化や通常使用によって生じる損耗(通常損耗)についてはその義務を負わない、という考え方が一般的です。その根拠は、経年変化や通常損耗の修繕費等は賃料に含まれていると解されるためです。

他方で、ペット飼育が許容される賃貸物件で、ペットによるひっかき傷や臭い、汚物によるシミ等によって、室内の劣化が通常に比べて進みやすいと言えます。このペット飼育によって特に発生した損耗について、通常損耗となるのか特別損耗となるのかが問題となりますが、裁判例における基本的な考え方としては、

  • 賃料設定がペットを飼うことを許容したことで、通常より高額に設定されていた場合は通常損耗
  • そうでない場合、ペットを飼育していたために、賃貸物件の使用で通常に生ずる傷や汚損を超えて損耗が生じた場合は特別損耗

との基準で判断されている傾向があります。

すなわち、「賃料が通常よりも高額に設定されているかどうか」という点が一つのポイントとなります。今回は、「猫の飼育1匹まで可とされていたが賃料は通常より高額に設定されてはいない賃貸物件においてペット飼育に伴う傷・汚損等が特別損耗と判断されたケース(東京地方裁判所平成25年11月8日判決の事例)」を紹介します。

この事例は、築17年の3階建ての賃貸アパートで、契約書の特約で「猫1匹の飼育を認めるが、トイレを設置すること、他人の迷惑にならないよう気を付けること、内装を破損した場合修理費を負担すること」と定められていました。

そこで、12年以上住んでいた賃借人が退去することになり、退去時に室内を見たところ、フローリングの一部は飼い猫の糞尿等を長期間放置したことによる腐食のほか、剥離等の毀損が認められ、当該腐食部分は床下の床根にまで浸透していたため、賃貸人はフローリングの全面張り替えと腐食した床根の補修を行い、費用を賃借人に請求しました。

しかし賃借人からは、「12年以上住んでいたのであり、猫の飼育も認められていたのだから、これらの傷は通常損耗と言えるはず」「仮に特別損耗だとしても、築17年経っていて経年劣化で価値が下がっていたのだから、リフォーム代を全て負担するのはおかしい」などと反論され費用の支払いを拒まれたため、賃貸人が提訴しました。

この事案に裁判所は

「賃借人は、貸室で猫の飼育を認められていた一方で、その飼育に伴い室内に損傷等を生じさせることのないよう善管注意義務を負っていて、その義務の程度が緩和されるべき事情は認められない」

と述べて、ペット飼育に起因する傷や汚損は特別損耗として賃借人の費用負担を認めています。一方で、工事費用の負担割合について裁判所は

「フローリング工事に係る費用については、その30%の額を賃借人の負担とするのが相当である」

と判断しました。理由として4点を挙げています。

  • フローリングの全面張り替え工事には,新築後約17年における経年変化や通常損耗に係る部分を修復する工事が必然的に含まれており、賃貸人はその分過剰に利益を受けているといえる。
  • 証拠上認定できるフローリングの損傷部位は、あくまで一部にとどまり、その余の部分について通常の使用による損耗の程度を超える損耗が生じていたと認めるに足りない。
  • したがって、その部分補修でなく、居室の全体につきフローリングの張り替えを行ったことが、可能な限り毀損部分に限定された工事であると認めるに足りず、この点で賃貸人は過剰な利益を受けているといわざるを得ない。
  • 他方で、腐食した床根の補修については、賃貸人が過剰な利益を受けたとまではいえない。

この事例では、その他、居室ドア縁、巾木、居室石膏ボードについても、猫の爪研ぎによる破損等を特別損耗と認めつつ、上記で述べた事情を個別に考慮して、賃借人の費用負担割合をそれぞれ、居室ドア縁(20%)、巾木(25%)、居室石膏ボード(50%)と認定しています。

以上のように、ペット飼育による傷・汚損等が特別損耗と認められた場合でも、

  • 新築時(またはリフォーム時)からどの程度の年数が経過していたか
  • 全面張替(交換)工事を行った場合、傷や汚損が生じていた部分が全体のうちのどの程度の割合だったか

という点を考慮して工事費用の負担が決められることを示した裁判例と言えます。

予想される金利上昇問題と逆ざやサブリースという悪質商法

低金利が続く日本経済ですが、世界的なインフレの影響で物価上昇が顕著になり、昨年末から金利上昇の可能性を指摘する専門家の予想が出てきました。金利と不動産経営は密接に結びついているので、オーナーにとって重要なニュースとなります。

金利上昇の可能性と賃貸経営への影響

金利は市場の動向に基づいて銀行が設定しますが、「銀行の銀行」と言われる日本銀行は様々な手段で金利をコントロールし、現在はマイナス金利政策を採用しています。このマイナス金利は世界的にも珍しい政策で、「金融機関の収益低下」「市場の調整機能を歪ませる」「資産バブルのリスク」など様々な弊害も指摘されています。

つまり、そもそも現在が異常な事態であり早く正常化させなければいけない、という主張が多く聞かれるのです。昨年4月には、日銀総裁に経済学者の植田和男氏が就任しました。日銀・財務省出身者ではない新総裁に期待されるのは正常化以外にはない、とまで言われていて、現在のところは今年4月を目処にマイナス金利を解除し正常化に進むという予想が多いようです。

2年後には住宅ローン4%台の時代!?

金利上昇について、みずほ銀行系列のみずほリサーチ&テクノロジーズが昨年11月に金利レポートを作成しています。そこでは2026年頃の住宅ローン金利が4.0%(変動)、4.8%(固定)と予想されていて、2023年度の0.3%(変動)、1.8%(固定)から大きく跳ね上がった数値となっています。

「いくらなんでも変動が激しすぎる」と思ってしまいますが、現在は物価上昇率が3〜4%と高い数値で推移していることや、3万5,000円を超える株価(執筆時点)などの経済指標は、89年〜90年のバブル経済の頂点に迫る勢いもあります。金利も同様に上がっていてもおかしくはないというわけです。

このレポートにはアパートローンの記載はありません。現在のアパートローンは1%前半〜2%後半の相場ですが、仮に住宅ローンと同じとすれば、2026年度には4%前半〜5%後半くらいになってもおかしくないと言えそうです。

高金利になれば不動産取引は減少し不動産価格も下落するため、所有物件を売却するには不利になる一方で、現預金を持っていたり、多数の担保を所有する資産家にとっては久しぶりの仕入れ時になるかもしれません。

住宅ローンが上昇すれば住宅を購入できる人も減少し、家を買えずに賃貸住宅を選ぶ人が増えるなら家賃相場が堅調になる可能性もあります。所有物件の建て替えや、新規取得する予定がないオーナーにとっては悪い話ばかりではなさそうです。ある金融機関のアナリストによると

「今年中に金利が上がるのは既定路線。ただ、市場がパニックになるほど急速に上がる状況は考えにくく、その兆候もない」と言います。別の金融関係者も北陸・能登の復興需要もあるので急速な変化はないと話しています。いずれにせよ、不動産市況に直接的な影響を与える金融政策を注意深く見守っていく必要があります。

逆ざやサブリースで高値で悪徳転売か?

「第2の“かぼちゃの馬車”となる新たな不正手法」と不動産関係者が語る、サブリースを使った収益不動産の販売方法が問題視されています。「逆ざやサブリース」と呼ばれる不動産販売です。

サブリース会社が物件を市場より高い家賃で借り上げ、高い利回りが得られるように見せかけて買わせる手法です。実際には市場価格でしか賃貸できないので赤字(逆ざや)を抱えながら借り上げています。銀行の融資審査をごまかし、高値で投資家に売却する目的で、サブリース会社はダミー会社とも目されています。

言うまでもなく、不動産販売会社とサブリース会社は協力関係にあり、しばらくすると借り上げを一方的に解約されてしまうのです。この手法に引っかかり、高い収益があると思い込んで高額で物件を購入してしまった投資家が複数いるようです。

「スルガ銀行問題があり貸付の審査は厳しくなった。家賃が振り込まれているエビデンスなども厳しく見るようになったため、サブリース会社によって一時的に家賃を振り込んでいく手法が使われるようになった」と不動産会社、経営者は語ります。

昨年9月には、サブリースが逆ざや状態であることを告知せず投資家に販売した不動産会社と代表者に損害賠償請求が認められる判決がありました。

こうした商法は減少するはずですが、すでに多数の投資家が逆ざやの物件を所有している可能性もあり、今後、社会問題化する可能性もあります。


金利の先高予想と相まって、物件を購入する際には慎重かつ正確な市場調査が欠かせません。