- 2024.04.08
オーナーと管理スタッフのための災害時の行動規定
賃貸管理業務は平時だけでなく緊急時の対応も求められます。緊急時とは停電や断水、火災や施設内での事故・事件などがありますが、このたびの能登半島地震のような大きな災害も想定されます。
私たちの現場でも、東日本や熊本の地震が起きた後に「災害時の行動規定」を作成しました。今回は大きな項目のみを紹介させていただきます。オーナー様の災害時の準備にも役立つところがあるかもしれません。
【事前準備】緊急時に必要なデータの準備
やはり事前の準備がとても重要になります。まずは行動するときの基となるデータです。通常の管理業務に必要なデータは紙媒体で保管してあり、管理ソフトを用いた電子データは自社サーバーに格納してありますが、平時と緊急時では必要なデータが異なりますし、被災で事務所が倒壊することもあり、緊急時用に整理して用意しておく必要があります。
当社では災害時用のデータだけを、紙媒体をPDF化してクラウドサーバーに保管して、スタッフの誰でもアクセスできるようにしています。それは以下のようなデータです。
①家主さまと入居者の緊急連絡先
家主さまと入居者の固定電話と世帯主の携帯番号は当然ですが、緊急時は連絡がつかないことも想定されるので、可能な限り、奥様やお子様の携帯番号も控えるようにしています(個人情報でもあり、入居者の場合は書き込んでいただけないことも多いです)。
②被災時用の管理物件の一覧
現地調査の時に便利なように地区別に分けてあります。構造や築年数や室数などのほかに、火災保険の内容(地震保険を付帯しているか)も記入してあります。さらにグーグルマップにピン留め(ピンを立てること)して保存し、スタッフで共有できるようにしてあります。
③避難所候補の一覧とマップ
避難所候補は自治体のホームページで確認できます。これをマップに書き込み、管理物件ごとに避難所を特定しておきます。管理物件の入居者にも避難所を伝えていますが、平時では覚えていただけない、という課題があります(掲示板のある物件では大きく書いて張りだす)。
④管理スタッフの緊急時の連絡方法
就業時間外で被災した場合は、管理スタッフはバラバラになっているので、安否確認も含めて連絡をとる必要があります。そのため電話番号のほかに、管理、仲介、事務など職種別にLINEグループを作っています。また、災害用伝言ダイヤル「171」などの知識も共有してあります。
⑤緊急時のために用意しておくもの
緊急時はガソリンが貴重になりますので、車両規定で「ガソリンは半分になったら補充する」と取り決めをしています。管理家主さんにガソリンスタンド経営をされている方がいらっしゃるので、被災時は一般よりもガソリン供給を優先していただけるように(一応は)お願いしてあります。
また、管理スタッフの人数分の自転車と、ヘルメット、ひざ当て、ひじ当て、手袋を用意。靴は、被災現場に瓦礫(がれき)が散乱していることもあり、用意できるなら、簡易な登山靴のような、靴底が厚く固い、足首をホールドしてくれる靴の用意を推奨しています(これは各自の用意なので、予算の都合でなかなか準備できていませんが)。
⑥防災準備品を用意する
過去の大規模災害で「何が必要だったか」という、業界先輩の貴重な体験談に基づいてリストを作り、備品を用意するようにしています。保存水や緊急医薬品セットなど40項目ほどのリストになります。
【被災直後】行動するための取り決め
全員が大きな災害は未経験であり、思考が止まってしまうことが想定されるので、行動の規範となるような「初期対応の優先順位」を定めておく必要があります。以下のような順番になっています。
- スタッフの安否確認
- 自社・店舗事務所の被害確認
- 家主さま・入居者の安全確認
- 管理遂行のための連絡と社内体制確認
- 管理物件被災状況の現場確認調査
家主さまと入居者の安全確認が3番目になっていますが、1と2が確保できないと、その先に進めないのでご理解いただければと思います。
①自分と家族、親族の身の安全確保
自分と家族の安全確保を何よりも優先。もし自宅が住めない状態なら、避難所への移動を完了させ、生活を落ち着かせる必要があります。家族を残して管理業務の現場に行けるような態勢を整えることに注力することが最優先です。
②会社に原状報告と今後の指示確認
会社には、固定電話、携帯電話、LINE、災害用伝言ダイヤル「171」、web171災害用伝言板などを使って、自身の安否報告と、本社や店舗事務所の被災状況確認を、できるだけ早く行います。当社では、スタッフのメーリングリストを作っているので、そちらでも逐次、情報の共有ができるはずです。
また、災害時や大規模な通信障害時など、いざという時に使える「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」という無料Wi-Fiが解放されるので、それらの知識も共有するようにします。
③社内の災害対策本部の立ち上げ確認
本社や店舗事務所の被災状況によって災害対策本部が設置されている場所を確認する必要があります。災害対策本部は、インターネットと固定回線がつながり、FAXなどの通信手段が確保されている必要があります。確認後は、そちらに集合して、管理業務をスタートさせます。
④家主さまと入居者の安否確認
固定電話・携帯電話で連絡をとり、判明した結果を大きなホワイトボード(または模造紙)に記入していきます。連絡がとれない方は、現地や避難所で確認していきます。物件が住める状況ではない入居者については、最寄りの避難所に退避できたか、避難所に入れない状態か、分かる範囲で把握。
被災した家主さまについては、管理物件の近くに住んでおられるか、離れた地域に住んでいるか、確認しながら把握するように努めます。連絡がつかず避難状況も分からない方に対しては、災害用伝言ダイヤル「171」で伝言を残します。
また、安否の分からない入居者の貸室玄関に「管理会社からの安否確認です。避難先と連絡方法をご記入ください」という張り紙をガムテープで留めておきます。
⑤管理物件の状況確認
その時点で集合できた管理スタッフで、地域別に担当管理物件を決めて、現地に行って被害状況と被災状況と入居者の安否確認をします。確認の際のポイントは以下の通りです。
- スタッフが安全に確認できるか判断する。
- 継続して住める状況か否かを判断する。
- 修繕が必要な場所や危険箇所をチェック。
- 入居者の安否や避難状況をチェック。
- 入居者へ危険箇所を周知するため張り紙。
- 犯罪を防ぐための注意・対策をする。
管理物件の被害状況は、倒壊破損しているか、入居は可能か、などを目視で確認するため、「管理物件被害状況チェックシート」を用いて、管理物件ごとに記入していきます。
これよりあとの段階になりますが、これらの被害状況を元に、賃貸借契約を解除するか、家賃の一部を免除するかなどの判定をして、家主さまに報告することになります。
⑥入居可能な空室の確認と一覧の作成
住めなくなった管理物件の入居者の移転先として、管理及び募集を委託されている物件の現空室を把握して一覧にします。また、管理と募集を委託されていない物件家主さまも、分かる範囲で連絡して、一室でも多くの空室情報を集めます。
管理物件の入居者以外にも、入居依頼が殺到することが予想されるからです。この確認も家主様への電話連絡と訪問が主になります。
⑦クレームの優先順位付け
管理物件と入居者確認の現場調査チームとは別に、クレーム電話受付チームを複数名で構成します。被災直後から、故障や破損の連絡や相談の殺到が予想されます。クレーム電話の受け付けは、かなりの緊張とひっ迫感が予想されます。
すべての電話に同様の対応をしようとすると、重要な案件が後回しになる危険性があるので、以下のような優先順位付けをしておきます。
- 緊急性も重要性も高い
- 緊急性が高い
- 重要性が高い
- 緊急性や重要性が低い
また、クレームを「故障・破損」についてと、「相談」とに分類することで整理できます。
【被災後】一定期間が経過したあと
- 管理物件の被害状況により契約終了か家賃免除かを判定。預り金や家賃の返還に応じます。
- 必要な修繕工事の手配(優先順位付けが必要)。
- 物件の保険加入状況に応じて保険会社と折衝。
- 家主さま、入居者に各種補助金(災害弔慰金、災害障害見舞金、災害援護資金)の説明。
- 家主さまに罹災証明書取得の助言。
- 空室の「賃貸型応急住宅への提供」の検討。
賃貸業界のニュース
SNS普及で「おとり物件」が大幅に減少
不動産ポータルサイト「HOMES」を運営する株式会社LIFULL(東京都)が、「おとり物件」に関する調査結果を発表。おとり物件とは、存在しない物件や契約済みで取引不可能な物件、取引する意思のない物件の3種類を指します。
2018年度のおとり物件数は2,212件でしたが、2022年度は126件に激減しています。この減少の背景には、SNSの普及により架空の物件広告が難しくなったことがあります。
今の時代、悪いことはすぐに広まるので、信用問題を起こしてまで集客することが「割に合わない」と理解されたのでしょう。また、不動産事業者のコンプライアンス意識の高まりも影響しているようです。
架空物件の減少とともに、契約済みなのに、ポータルサイトに掲載され続ける物件も、「おとり物件」と指摘されるようになりました。LIFULLの調査では、半数以上の不動産会社で、募集終了した物件の掲載を取り下げに1日以上を要しているそうです。
意図せずに「おとり物件となってしまっている」と言えるでしょう。根本的な解決策としては、不動産管理会社と仲介会社がシステムで連携するなどがありますが、設備投資が必要でもう少し時間がかかりそうです。
監督官庁によると、募集終了とは「入居申込みがあった時点」と定義されています。しかし、実際には審査で落ちるケースも少なくなく、2番手や3番手の候補者募集のために残したいという考えも理解できます。
このような現場の実情と、「申込み済みなのに掲載されている」という非難との間に隔たりがあることも課題として考える必要があります。
また、おとり物件が巧妙化している事実も確認されました。安い家賃で数ヶ月の短い定期借家契約を結び、再契約時に家賃が大幅に上がるという条件なので、賃料に魅力を感じて問い合わせたものの内見を希望する人はおらず、反響後に他の物件へ誘導する目的で掲載しているようです。
架空物件では無いため、指摘しづらい面がありますが、これも立派な「おとり物件」なので注意が必要でしょう。
4月1日から不動産の相続登記が義務化
今年4月から相続登記が義務化され、不動産の相続を知った日から3年以内に登記申請をしなければならなくなります。4月1日に相続した不動産も義務化の対象になります。3年以内に登記を行わない場合、10万円以下の罰金が課される可能性があります。
ちなみに、罰金を支払っても登記義務は消滅しないため、早く登記する以外に手はありません。国交省の調査では全国の所有者不明の土地は約410万ヘクタールにもなり、九州全土を超える規模まで増えてしまっています。所有者不明の土地問題を解決し、公共事業の進行や災害復興をスムーズに行うために導入されました。
相続登記せずに不動産を継いだ人が亡くなった場合、次の相続人は土地の存在を把握するのが難しくなります。仮にその不動産が相続財産であることを知っていたとしても、誰がどれだけの割合で所有しているのかが不明なため、財産の詳細を調べる作業は非常に複雑になります。
後の世代に面倒をかけないため、なるべく早い対応が必要になります。
能登半島地震で生活再建を阻む住宅事情
1月1日に発生した能登半島地震では、2000棟以上の家屋が被害を受けました。半島という地理的な制約と主要道路の寸断により復旧作業は難航しています。
地元の不動産関係者によると、高い持ち家率という北陸の伝統と賃貸住宅の不足、能登地方の広大な屋敷と大家族文化が生活再建を遅らせているそうです。結果として、家族向けの賃貸住宅を探すことが困難で、行政による家賃補助「みなし仮設」の提供が追い付いていません。
一方で、今回の震災では「ムービングハウス」と呼ばれるコンテナ型の移動式木造住宅が仮設住宅として利用されています。平屋建てで、冷暖房完備、水洗トイレや浴室、台所、収納を備えており、断水対策として受水槽と浄化槽が設けられていて、窓には断熱性の高いトリプルガラスが採用されています。
さらに、全国からキャンピングカーが被災地に貸与されていて、震災ボランティアや医療班の拠点として使われています。
石川県で、すでに輪島市、珠洲市、七尾市を含む複数の市町で、計1,248戸の仮設住宅建設が始まっていまる一方で、すぐに使える移動式住宅、コンテナハウス、キャンピングカーなどが役立っている事実は、災害時の住宅再建策として貴重な事例となりそうです。
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