- 2024.07.08
「適正な賃料」を知る方法とは
Q.前回の解説で、「適正賃料を正確に把握することが出発点」というお話しがありましたが、それを知る方法について教えてください。
A.適正賃料は賃料査定によって知ることができます。これは不動産会社がオーナー様に対し、「その物件の賃料はいくらで貸し出せるか」を提案するものですが、示された査定額が、そのまま募集賃料となるわけではありません。
それを元に、募集条件の吟味や、設備追加などによって、プラスマイナスされて募集賃料が決められるわけです。このような対策は、たとえば、賃料の値下げ、据え置き、フリーレント、設備追加、リフォーム、リノベーションなど、いくつもありますが、どれが良くて、どれはダメ、ということはありません。
オーナー様の賃貸経営の方針や、経営する期間によって選ぶ対策は異なるはずです。では、どうやって選べばよいのか? その判断基準は2つあります。
対策を決定するときの2つのポイント
1つめは、募集開始から3年~5年間の収益(家賃収入からかけた費用を差し引いた額)を成果とすることです。「すぐに決まった」とか、「6カ月もかかった」という目先ではなく、一定期間に稼げた収益が重要です。
たとえ決まるのに6カ月を要したとしても、募集賃料を査定より10%も高く設定した結果なら収益は満足レベルのはずです(こんなラッキーな例は安易に期待できませんが)。
反対にすぐ決まったとしても、募集賃料を査定より10%も低く設定した結果なら収益はそれほど多くはないはずです。
賃料査定を元に募集対策を決めるときは、中期の想定を綿密に立てることが重要です。もちろん結果は「やってみないと分からない」部分がありますが、その結果を経験として積み上げていくことが、長い賃貸経営において生きてくるのです。
2つめは、地域の需要を正確につかむことです。人気設備のベスト3でも、この地域に転入希望している人が、その設備にお金を払うとは限らないのです。
このテーマについては別の機会に解説したいと思いますが、対策を決定するときの判断のベースになるのが、「賃料査定による適正賃料」です。これが現実と離れていたら、想定した結果を得ることができないでしょう。
どのように賃料査定されるのか
ここからは、どのように査定されるのか、について説明いたします。不動産の査定には、売買物件の価格査定と、賃貸物件の賃料査定があります。土地や建物には価格査定マニュアルがありシステム化されているのですが、賃料査定には、一般化されたマニュアルはありません。
各社がデータを基に属人的に判断することが多く、担当や会社によって査定に差があります。勘と経験のみに頼るのでなく、科学的に、データに基づいて査定する必要があります。
賃料査定の第一段階は「相場による算定」です。査定する貸室と同じエリアの、タイプ、間取り、専有面積、賃料条件、㎡単価、築年数、交通アクセスが近い類似物件を一覧にして、この地域の相場を把握します。
たとえば、査定物件が、駅から徒歩10分(駅立地でないエリアでは地域名など)、築18年のRC造、42㎡の2DKの場合、その類似物件一覧の賃料条件を見比べることで相場家賃(㎡単価)が算定できます。
第二段階は加算と減算です。室内設備について、全国賃貸住宅新聞社(東京都中央区)の「この設備がなければ入居が決まらないトップ10」によると、単身者・ファミリーともに、エアコン、TVモニター付きインターホン、室内洗濯機置き場がベスト3に入っています。お客様が、これらを必須設備と認識されているなら、付いていないと減算の対象とする、というわけです。
さらに「この設備があれば周辺相場より家賃が高くても決まるベスト10」によると、単身者・ファミリーともに、インターネット無料、オートロックがベスト3に入っています。ほかに、単身者は高速インターネットや宅配ボックス、ファミリーは追いだき機能やシステムキッチンが上位にあり、これらは大きな加算ポイントとなるでしょう。
さらに、部屋の階数、角部屋か中部屋か、ベランダの向き、収納能力、間取りの使いやすさ、なども加算や減算の対象です。
第三段階は現地確認です。不動産会社が初めて査定する物件は現地を見るのは必須です。自社エリア外の場合は、現地の不動産会社を訪問して、相場と需要について情報収集をします。
賃貸募集にとって「賃料査定による適正賃料」が重要であることをご理解いただけたら幸いです。査定は不動産会社が行いますので、オーナー様は、不動産会社とご一緒に、賃貸収益が最も高くなる募集戦略を考えて実施してください。
賃室以外で発生した自殺等で賃貸主は説明義務を負うか?
居住用賃貸物件で賃借人の事故死や自殺があったとき、および、孤独死から発見まで時間が経過してしまったとき、賃貸人は次の募集の際にこれらの事実を借主予定者に伝えるべきか、伝えるとしても、事故(事件)からいつまでの期間なのか、という点について明確な基準を定める法律や最高裁判例がありませんでした。
しかし、近年、これらに関する基準がなく現場の判断が難しいことで、賃貸物件の円滑な流通や、安心できる募集・契約が阻害されているとの指摘がありました。また入居者が亡くなったら、その理由の如何を問わず告知する義務があるという思い過ごしから、単身高齢者の入居敬遠に至っているとの指摘もありました。
そこで、令和3年10月8日に国土交通省により、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が策定されました。
このガイドラインでは、居住用不動産で人が死亡した時、物件の売買・賃貸の際に、売主・貸主から媒介を依頼された宅地建物取引業者が
- どのような死亡事故を告知すべきか
- どの程度の期間(いつまで)告知すべきか
についての指針を示しています。
これは宅建業者の告知義務の指針を示すものなので、ガイドラインに従ったからといって、貸主が民事上の責任を回避できるとは限らない、との留意点が付されています。ただし、実際に裁判紛争となった場合には、ガイドラインの内容が重視される可能性は高いと考えられます。
今回は、賃貸取引の場合におけるガイドラインのポイントを説明します。
1.自然死、家庭内事故による死亡の場合
ガイドラインでは、老衰、病死などの自然死は、原則として告知の必要はないとしています。また、自宅階段からの転落や入浴中の転倒事故、食中誤嚥などといった、日常生活の中で生じた不慮の事故による死亡についても、このような事故が生じることは当然に予想されるものとして、告知の必要はないとされました。
ただし、このようなケースでも、発見が遅れたことにより諸々の事態が発生して、特殊な清掃が必要になった場合などでは、事故物件として原則3年間の告知義務を負うことになります。
また3年の期間についても、事件性、周知性、社会に与えた影響が高く、新聞やテレビで報道されるなどの特殊事情があった場合は、3年が経過してもなお告知義務を負うべき可能性が指摘されています(この場合の具体的な期間は明示されていません)。
2.殺人、自殺、原因不明事故による死亡の場合
殺人や自殺、原因不明の事故による死亡については、その発生時期・場所・死因について告知すべきものとされています。告知すべき期間は事故の発生からおおむね3年間です。
ただし前述のとおり、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案はこの限りではないとされており、過去の売買の裁判例でも、「近隣住民の記憶に残っている事件である」ことを理由に、20年経過した場合であっても告知義務があると判断された事例(高松高裁平成26年6月19日判決)もあります。
したがいまして、特に殺人事件でニュース報道がされてしまった事件などの場合は告知期間について留意が必要です。
3.告知すべき事件・事故の場所の範囲
今回のガイドラインでは、居住用不動産の専有部分や居室内を想定しており、隣室や上階・下階の居室、および共用部分で発生した事件・事故は対象外とされています。
ただし、専有部分や居室内以外の場所であっても、「ベランダ等の専用使用している部分」、「共用の玄関・エレベーター・廊下・階段のうち、借主が日常生活において通常使用すると考えられる部分」で発生した事故については告知すべきとされています。
なぜ、このような例外的ケースを設定したのか? については、過去の裁判例で、
- 各居住者が居室を出入りする際に通る共用スペースでの自殺(東京地裁平成26年5月13日判決)
- 非常階段やバルコニーでの自殺(東京地裁平成27年11月26日判決)
において心理的瑕疵と判断されていることが影響していると考えられます。
このガイドラインは、パブリックコメントの募集期間も満了して正式に公表されたものです。これによって「貸室内で人が亡くなったら、とにかく告知しなければならい」という、賃貸人側の誤解や思い過ごしは避けることができるようになるでしょう。
敷金ゼロ物件増加、礼金は増額傾向(首都圏)ほか
ハザードマップ説明無しで京大生協が処分
水害ハザードマップをご存じでしょうか?これは自然災害による被害が想定される区域とその程度を示した地図のことで、住民や不動産関係者に災害発生時の重要な情報を提供するために作成されました。
2018年の西日本豪雨の被害を受け、国土交通省は2020年夏に宅地建物取引業法の省令を改正し、不動産業者に水害ハザードマップを活用した物件の災害リスク説明を義務付けましたが、それが徹底できていない現場もあるようです。
今年5月の報道によると、京都大学の生活協同組合が、学生らと賃貸借契約を結ぶ際の重要事項説明に不備があったとして京都府から行政指導を受けていました。京大生協は、2020年8月以降に学生らと結んだ1,635件の賃貸借契約において、重要事項説明書に水害ハザードマップの記載がなかったことを認め謝罪しています。
また、共同利用の無料洗濯機を、募集広告には「コインランドリー」と記載するなど、事実と異なる内容も含まれていたことも指導の対象になりました。これらの問題が発覚したのは、募集広告を見てコインランドリー付きの物件と思って契約した学生が、広告と実態の違いを京都府に相談したことがきっかけでした。
その後、京都府が重要事項説明書を確認したところ、水害ハザードマップの記載もないことが判明した、と地元新聞などが報じています。京都府は今年3月に京大生協に対し、宅地建物取引業法に基づいて適正な業務を行うよう勧告しました。
京大生協によると、重要事項説明書への記載はなかったものの、別途、学生らにハザードマップを印刷して渡し、リスクについては口頭で説明していたそうです。
しかし今回、処分の対象となったことから、ハザードマップは単に形式的に添付するだけでなく、重要事項説明書と一体となってわかりやすく説明することが求められているようです。
近年、自然災害が増加し、その被害も甚大化していますので、不動産業者は、ハザードマップを活用し、適切な情報提供と説明を行うことで、入居者の安全・安心な暮らしを支援していくことが求められています。
首都圏で敷金ゼロ物件増加、「クリーニング代」請求でトラブル懸念
物価高騰や景気の不透明感から賃貸住宅の需要が増加しているところですが、一方で賃貸経営において入居者募集の際に悩ましい問題なのが敷金・礼金の設定です。LIFULL(東京・千代田区) が運営するポータルサイト「LIFULLHOME’S」の調査によると、首都圏の賃貸物件では敷金の減額傾向が続いており、敷金0物件の割合も増加傾向にあることが分かりました。
その一方で礼金は増額傾向にあり、礼金0の物件割合は減少しているようです。首都圏賃貸物件における敷金動向を細かく見ると、賃料20万円未満の物件では敷金0物件の割合が増加傾向にあり、特に10万円未満の物件では2018年の35.6%から2023年は53.2%と大きく増加しました。
一方で20万円以上の物件では、2022年まで敷金0物件が増加していたものの2023年は減少に転じています。また「敷金あり」の物件でも、平均敷金額は全賃料帯で減額傾向にあるようです。特に2020年から2021年のコロナ禍で大きく減少し、その後は緩やかな減少や停滞が見られます。
敷金の減少幅は賃料が高いほど大きく、20万円以上の物件では2018年の1.52ヵ月分から2023年には1.18ヵ月分と0.34ヵ月分の減額となっています。この背景には、初期費用負担を抑えたい、という入居者の意向を汲みながらも、賃料は減らさずに収入を確保したいというオーナー側の意向があると分析されています。
敷金0物件が増加する一方で、一部の管理会社で「クリーニング代」の名目で別途費用を徴収するケースも出てきています。
LIFULLHOME’S総研チーフアナリスト・中山登志朗さんは、「物件の原状回復については、故意過失および通常使用の範囲を超えた原因がある場合は賃借人の負担となるルールがありますが、クリーニング代はその基準が不明確で、国民生活センターへの問合せも増えていることから、今後新たな“預り金トラブル”とならないようにあらかじめ確認する必要があります。」と注意を促しています。
関西の「敷引き制度」など、そもそも地域によって礼金・敷金に関する商慣習が大きく違いますが、初期費用を抑えたい、という入居者ニーズは全国共通です。今回の調査は首都圏のみの調査でしたが、全国的にも同様の動きがあるのか気になるところです。
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