2024.08.08

2024年8月の賃貸経営管理ニュース

Share
LINE

真夏の閑散期。物件の価値を維持する賃貸管理とは?

賃貸募集には「閑散期」といわれる時期があります。2月から4月には新社会人や学生が新しい住処を探す『春の繁忙期』があり、9月・10月には法人の転勤が活発になる『秋の繁忙期』があるので、その狭間の12月・1月と7月・8月が『閑散期』と呼ばれています。

まさに「いま」がその時期なのですが、私たち賃貸管理スタッフには、この時期ならではの重要な仕事があります。暑いからといって「ボーっ」としているわけにはいきません。オーナー様の物件の管理はいかがでしょうか?

夏こそ重要な「空室巡回」

私たちの重要な仕事のひとつに「空室巡回」があります。目的は、お部屋探しのお客様がいつ訪れてもいいように「貸室をいい状態に保つ」ことです。さらに、お部屋の劣化を防ぐ目的もあります。

オーナー様の物件がいつも満室なら、巡回する手間と時間は不要ですし、管理料も多くいただけるのですが、退去を全くゼロにするのは不可能なので、どうしても空室機関が生まれてしまいます。そこで定期的な見回りが必須になります。

6月半ばから8月の高温多湿は空室にとっては大敵です。そこに人が暮らしていれば、空調が適切に行われ、自然に空気は入れ替わり、配管に水も流れるのですが、空室期間はそれらが滞ることになります。高温多湿のお部屋は、カビが発生したり、配管から虫が入り込んだり、たまった水から悪臭がするなど、寒い時期よりも不具合が於きやすいのです。

そこで、この時期の空室巡回では、窓を開けて空気を入れ替え、水回り設備の蛇口を開けて水を巡回させ、虫の死骸などを清掃する作業の回数が、通常時より多く必要になります。エアコンも定期的に作動させた方が性能を維持することができます。

南向きのお部屋は人気ですが、空室の期間に、遮る物もなく太陽の光に晒したままにしておくと、床や壁などの劣化が進みます。フローリングは日焼けすることで劣化スピードが速まり、変色や色褪せ、剥がれや羽毛立ちなどの症状が出てしまうのです。

それを防げるのはカーテンです。お客様をご案内したとき、カーテンがあるとイメージが良いので、設置していただく提案をしていますが、夏の太陽光線を防ぐ効果も大きいです。遮光できるカーテンならベストです。

庭木の水不足と雑草の浸食を防ぐ

管理物件の中で、共用部分の日常清掃を実施させていただいている物件があります。この定期的な政争の目的は、1.入居者さんの満足度をあげることで永く暮らしていただくこと。2.ご案内したお客様の印象をよくすることで入居申し込みにつなげること。3.物件の劣化を遅らせて価値を維持すること、にあるのですが、この時期に特に気にかけているのが庭木への水やりと雑草駆除です。

庭木は、猛暑が続けば水切れや葉枯れということも考えられますし、ここ数年の夏の暑さは尋常ではないので、水をたっぷりと与える必要があります。また、庭木に交じって繁殖する雑草を手取りする必要があります。舗装されていない駐車場などは、早いうちに雑草を刈り取って除草剤を使用することで、草取り・草刈りの回数を減らすことができます。酷暑の時期ですから、オーナー様が自ら、このような空室管理をするのは難しいかもしれません。

真夏の内見で心掛けていること

閑散期といっても、お部屋探しのお客様がゼロではありません。積極的に募集活動をしているなら、お問い合わせが入り内見もあるでしょう。その時のための「空室巡回」であり「共用部分の日常清掃」なのですが、それ以外にも「暑い時期ならでは」の工夫があります。

まず内見の時間帯は午前の早い時間か夕方を勧めます。夏の日中の閉め切った室内は、気温が40度を超えているので、ゆっくりと部屋を吟味することはできません。どうしても日中を指定されたときは、その前に現地に行ってエアコンをつけておくようにします(通電が必要になります)。

もし繁忙期なら、室内で物件の説明をしたり、お申し込みを促すのですが、夏の内見では、お客様との会話は涼しい車か事務所で行うように配慮します。個人的なことですが、私は塩飴をポケットに忍ばせていて、必要なときはお客様に差し上げるようにしています。

お客様が動き出す9月・10月は目の前です。そのとき、見つけていただき、問い合わせていただくために、賃貸条件の整備と、インターネットへの掲載など、秋の繁忙期に向けて態勢を整えています。

2024年賃貸住宅業界の上半期を振り返る

週刊誌やビジネス誌に執筆するライターのA記者と不動産業界向け新聞のB記者、不動産ネットメディアの編集を手がけるC記者の3名で、大災害からはじまった2024年の、賃貸住宅業界の上半期のトピックスを語ってもらいました。

「街の不動産屋」の倒産が急増

A:2024年は元日の能登半島地震から始まった。

B:多くの家屋が被害を受け、復旧作業が難航していますが、ムービングハウスやキャンピングカーなど新しい仮設住宅の形態が登場しているようです。これらの取り組みが災害時の住宅再建策として注目されました。

C:能登半島はもともと持ち家率が9割近くあり、賃貸住宅のストックが少ない。ひとまず賃貸住宅を借りて生活を再建しようにも、受け皿になれる部屋が少ないそうです。また、高齢化も進んでいて、「高齢夫婦のみ世帯」と「高齢単身世帯」が合わせて4割程度にのぼるため、復興の担い手不足も深刻です。それにしても、他の被災地に比べて能登半島地震は情報が少なく感じました。

A:現地入りしたボランティアに話を聞いたが、地元自治体などからSNSなどへの投稿に対して自粛要請があったようだ。被災者への配慮と情報発信との両立は難しい。今は一刻も早い復興を願うしかない。

C:今年2月に発表された東京商工リサーチの調査結果では、2023年に「街の不動産屋」の倒産が急増したことが話題になりました。不動産仲介業の倒産件数は120件に達し、前年69件から7割も増加して過去最多を更新したそうです。一体、何が起きているんでしょうね。

B:調査会社によると、倒産急増の背景には引っ越し需要の減少が影響しているという見方があります。3月の賃貸契約件数が、首都圏では昨年時点で約2万3000件と、コロナ前の水準の約8割にとどまっていて、倒産増には仲介売上げ減少が影響したようです。

C:そういえば、在宅勤務の普及だけでなく、大企業で異動制度の見直しが進んでいることも法人向け賃貸需要の伸び悩みの一因になっているようですね。加えて、引っ越し代の高騰や家賃上昇は個人の住み替えニーズを抑える要因になっていそうです。

A:企業の意向で転居を伴う異動が減少した影響はありそうだ。日本中が人手不足の中で、NTTやYahoo!といった大企業が転勤や単身赴任を廃止している。この動きが他の大企業から中小企業にまで進むと、法人向け賃貸需要の減少は避けられない。法人客をメインにしていた企業は方針転換を余儀なくされそうだ。

B:転居が減れば借主の入居期間が長くなる。大家さんにとって良いことだけど、新しい賃貸需要が減るのは困る。これは賃貸経営にとっては“プラマイゼロ”ということですかね。

賃貸業界の賃上げの課題は「価格転嫁」

A:2024年度の給与の賃上げについての調査が出たね。それによると、企業の85.6%が賃上げ予定らしいけど、不動産業界はどうだろう。(東京商工リサーチ・2月発表分)

B:不動産業界では賃上げ予定が76.0%と他の業界より少し低いですね。特に大企業は100%が賃上げ予定なのに対し、中小企業は73.0%で差がありました。全産業のなかで大企業と中小のギャップは不動産が一番大きかった。

C:賃上げするには「価格転嫁」が鍵になるけど、不動産業界はそれが難しく、賃上げの原資確保が課題です。実際、賃上げをしない理由に「価格転嫁できない」と答える経営者も多いようです。

B:仲介物件の賃料単価が上がれば「価格転嫁」になるんでしょうけど。

A:大阪で1000室以上の賃貸住宅を所有している法人オーナーが、毎月の管理料を1000円値上げすると通知したら入居者から猛反発を受けて驚いていたよ。そうはいっても掃除のパートさんや従業員の給料も上げないといけないから、なんとか交渉を続けているらしい。2023年はいろいろな業種で「人件費高騰」での倒産が増えたらしいし、こんな状況では無理な賃上げは経営を圧迫するリスクがあるね。

B:そういった状況も踏まえて、賃上げは「ベースアップ」よりも「賞与」で対応する企業が多いようですね。

C:それにしても、日本中で人手が足りず採用難が深刻化しています。伊藤忠商事のように福利厚生を手厚くするために独身寮を復活させる企業もでてきました。90年代には「持たざる経営」が流行って、寮や保養施設を手放していましたが、ショールームや防災施設を併設して、社員の生活環境を改善しつつ、企業の社会的責任を果たそうとするなど方針が変わってきています。

A:不動産業界の人手不足も深刻化している。大手ハウスメーカーでは新入社員の多くが法人営業部門への配属を望むらしい。理由は土日休みだから(笑)。次に人気があるのが住宅営業部門らしい、ここは火水休みで連休が確保できる。一番不人気なのが水土休みの賃貸住宅営業らしい。実は賃貸住宅営業が一番ボーナスが多い部署なのに、最近の若者は金だけでは動かないと古株の社員が嘆いていたよ。

C:三井不動産レジデンシャルでは社員の生活に配慮して一部店舗で日曜を休みにしているそうです。住宅関連企業は土日がかき入れ時という常識がなくなりつつあります。

B:大手でも採用に苦戦しているなかでは、中小はさらにキビしいですね。経営者も社員の給料をアップしたいのでしょうが、光熱費を始めとしてあらゆる経費が増えている状況では慎重にならざるを得ないでしょう。しかし、社会全体で給料を上げないと家賃だってあげられないのも事実です。

A:仲介や管理メインの不動産会社が人手不足になると、募集や管理を依頼している大家さんの賃貸経営にも影響しかねないね。

C:家賃アップと言えば、2023年の消費者物価指数で賃貸住宅の家賃が前年比0.1%上昇して、25年ぶりのプラスになりました。でも、実際には高騰した建築費が反映された新築物件の家賃が全体の上昇を引っ張っているみたいです。

B:そんな中で東海地方の管理会社は家賃アップのための特別チームを編成して、入居者との交渉に当たっているそうです。結果はどうなのか、今年の年末に答え合わせしたいですね。

A:しかし、物価高の影響で実質賃金が下がっている以上は家賃の値上げも簡単じゃないだろう。賃貸経営にとって家賃の上昇は重要だけど、全面的な上昇が期待できるのはまだ先になりそうだ。

「みんなで大家さん」に3度目の行政処分

A:投資関係でいえば、賃貸物件を小口化して投資家を募る「みんなで大家さん」にまた行政処分が下されたね。今回は大阪府と東京都から不動産特定共同事業法違反で一部業務停止だって。処分は、これで3度目だ。

B:不安に思う人も多いようで、24時間で約400名の投資家が解約希望を伝えてきたそうです。金額にすると48億円分だとか。これで解約業務も一時停止しているみたいですね。この処分で成田プロジェクトに影響が出るのでは、と心配する投資家もいました。

A:そもそも成田プロジェクトとはなんだ?

B:「みんなで大家さん」グループが手掛ける大規模な不動産開発プロジェクトです。成田空港の北西に位置する約45.5万平方メートルの開発用地を対象としていて、投資家から資金を募り、賃貸物件として運用することで利益を分配する仕組みです。

A:具体的にはどのような条件で募集されてる?

B:成田プロジェクトの投資商品は、想定利回り年7.0%、運用期間5年、出資金1口当たり100万円といった条件で募集されています。この時代に凄い高配当ですが、2020年11月に第1号の募集が開始されてから、累計の募集総額は1900億円を超えています。

A:巨額の資金だね。具体的に何を開発している?

B:世界トップレベルの高解像度スクリーンと音響を備えた客席5000以上のアリーナやホテル、商業施設などを成田市の森林を切り開いて開発する計画と言われています。今年5月には都内のホテルで会見も開いて、ワイドショーなどでも取り上げられていましたよ。

C:行政からの処分では、この計画の一部を変更するなどしたのに投資家に対する説明が不足していると指摘されました。「みんなで大家さん」では、この処分によってプロジェクトに影響が出ることはないと発表して、信頼回復に励んでいます。

B:こういったトラブルが続くと、賃貸物件への投資全体に悪影響が出るかもしれないので、注意深く見守りたいですね。

A:7月は新紙幣の発行、8月はパリ五輪開催と続いてる。これは前向きなニュースだけど、9月には岸田首相の自民党総裁任期が切れ、11月にはアメリカ大統領選挙も控えている。波乱の予感がする。経済に大きな影響がでそうだ。引き続き賃貸業界の動向に注目していこう。