- 2024.09.09
室内孤独死で2か月半の放置、賃貸人は相続人に損害賠償請求できるか?
【賃貸人からの質問】
所有してる賃貸マンション(賃料10万円)の一室から異臭がすると通報がありました。死亡も予想されたため、賃借人の家族と警察官の立ち会いで当該室内に入ったところ、死亡している賃借人が発見されました。布団の中で死因不明の状態でした。
発見が遅れて死亡後約2か月半が経過していたので、布団からは腐敗物が床に染み出している状態でした。その後、賃借人の相続人である両親に連絡を取り、原状回復費用等についての話し合いをしました。
2か月半放置されたことで大掛かりな原状回復が必要となり,その費用として50万円以上が請求されたので、当然に払っていただきたいと考えています。
その他、遺体発見の直後に入居希望のあった新規入居者2人から、礼金及び共益費の減額を請求されたので、1件は礼金8万円と、共益費3000円×24か月分7万2000円を足して15万2000円、もう1件は共益費3000円×24か月分7万2000円を減額しました。
また、遺体が放置されていたことが嫌悪され、当該貸室は長期間空室が続くか、賃料の大幅な減額を求められる可能性が高いと思いますので、その損害を填補するには、少なくとも賃料1年分の半額程度は必要と考えています。これらの損害について賃借人の相続人に請求したいのですが、認められるのでしょうか。
本件は、東京地方裁判所29年9月15日判決の事例をモチーフにしたものです。もし、賃借人の死亡原因が自殺の場合は、賃料の低下等に伴う損害として
- 当初1年間は賃貸不能期間として賃料全額
- その後の2年間については賃料半額程度
の請求を認めた都心ワンルームマンションの事例(東京地裁平成27年9月28日判決)があります。したがって、賃借人の自殺のケースでは、損害賠償基準が実務上も確立していると考えられています。
他方で本件のように、賃借人が物件内で自然死し、長期間、誰にも気づかれずに放置されていた、という場合、賃借人の相続人に対し将来の賃料の低下に伴う損害をどこまで請求できるか? という点は、裁判実務上、確立した賠償基準が存在するとは言えず、本件はこの点について判断できる事例となります。
この問題は、賃借人の死亡及びその発見が遅れた事情について、生前の賃借人に善管注意義務違反があったか否かが法律上問題になります。裁判所は本事例では、以下のように請求を否定しました。
- 賃借人の死因は不明であり、賃借人が本件建物内で自殺したとは認められない。また、本件全証拠によっても、賃借人が生前持病を抱えていたなどの事情はうかがわれないから、賃借人が、当時、自分が病気で死亡することを認識していたとは考えられず、また、そのことを予見することができたとも認められない。
- 以上によれば、賃借人に善管注意義務違反があったとは認められず、同違反を前提とする損害賠償請求には理由がない。
- したがって、賃借人の相続人も損害賠償義務を追わない。
この裁判所の考え方によれば、賃借人が物件内で自然死し、長期間、誰にも気づかれず放置されていた、という場合において、賃借人の善管注意義務違反が認められて損害賠償が発生する場合というのは
- 賃借人が生死に関わる持病を抱えていたこと
- 賃借人が上記持病によって突然死、もしくは居室内で死に至ることが十分に予見できるような状況であったこと
という事情が存在する場合ということになると考えられます。したがって、賃借人の自殺の場合と異なり、賃借人の自然死(及び発見の遅れ)の場合に、相続人に対して将来の減収分を請求できるケースはかなり限られると考えられます。
なお、令和3年10月8日に国土交通省により策定された「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では、老衰、病死などの自然死は、原則として告知する必要はないとされている一方で、発見が遅れたことにより遺体の腐乱が進んで腐敗臭や害虫が発生するなどして特殊清掃が必要になった場合には、事故物件として、原則として3年間の告知義務を負うとされています。
このようなケースの告知義務がガイドラインで明示されたことにより、賃貸人に将来の減収が生じる可能性はより高くなったといえますので、今後の裁判事例では、賃借人の善管注意義務違反の判断に影響が生じ、より義務違反を認め得る方向になる可能性もあると思われます。
仲介手数料の上限引き上げと省エネ意識の高まり
【空き家対策】仲介手数料の上限引き上げ
空き家対策の推進に向けて仲介手数料制度が今年7月から改正されました。賃貸住宅オーナーにも関連する大きな制度改正です。この改正では、800万円以下の「低廉な空き家等」の売買における仲介手数料の上限が引き上げられました。
上限額は、売主か借主の一方から受け取れる手数料は30万円、両方からなら60万円となりました。従来は、200万円以下の仲介手数料は売買価格の5%+消費税が上限なので、利用されていない空き家などの低価格物件が200万円で売買されたときの仲介手数料は11万円にしかならず、ポータルサイトへの広告掲載費用や手間を考えれば仲介会社は積極的に取り扱いできませんでした。
それが、30万円まで引き上げることができるので、その差は大きいわけです。
そのため国は、2018年に400万円以下の空き家に限って仲介手数料を18万円まで上げました。さらに、今回は物件価格が800万円まで、手数料は最大60万円まで大幅に引き上げることになったのです。
この改正は、全国に800万戸以上近くあるとされる空き家の市場流通を促進させるのが目的です。売買仲介会社向けITサービスを提供する会社によると「この改正で、大手不動産会社を含め、多くの仲介会社が低価格物件を扱うようになり力を入れ始めた。市場に出回る物件も徐々に増えつつある」と言います。
また投資家にとってもプラスは多いようで、ある不動産オーナーによると「市場に出回りにくかった物件が流通する可能性も高まるため、新たな投資機会にもつながりそう」と期待します。
一方で注意すべき側面もありそうです。同じ投資家は「郊外で相場よりも100万円以上も安い価格で戸建て住宅が売りに出ていた。すぐに不動産会社に電話したが、すでに大勢の投資家から問い合わせがあった後だった」とのこと。
担当者は、「売り出し価格を低くし過ぎたのでしょう」と語ります。低く査定しても手数料が変わらないので、価格査定が甘くなってしまった可能性もありそうです。オーナーとしては、所有物件の安値売却には注意したいところです。
空き家については賃貸仲介の手数料も引き上げになりました。貸主からは、通常の上限である家賃1ヶ月分の1.1倍を超えて2.2倍までの手数料を受け取ることができます。1年以上誰も住んでいない戸建ての空き家や、相続などで使われなくなった住宅が対象となります。
【省エネ意識】断熱性能で検索急増
リクルートの住まい領域調査研究機関「SUUMOリサーチセンター」が2024年のトレンドキーワードとして「断熱新時代」を発表しました。住宅性能のなかでも断熱に注目が集まっているようです。物件検索サイト「SUUMO」では、光熱費が少ない「ZEH」(ゼッチ)や「省エネ」といった用語を含む賃貸物件の問い合わせが1.8倍に増加しているそうです。
こうしたキーワードを含む物件の掲載数も増加傾向にあります。「ZEH」とは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略で、年間のエネルギー消費がゼロ以下の住宅です。高断熱、省エネ、創エネ(発電)を重視し、環境負荷を減らしつつ、光熱費も削減します。
調査によると、子どものいる家庭や犬を飼っている家庭で、ZEH賃貸住宅への関心が特に高いようです。子育て中の家庭の28%、ペットを飼っている家庭の39%が、「家賃が上がっても高断熱の物件を検討したい」と考えているそうです。
共働き世帯の増加に伴い、ペットのためにエアコンをつけたまま外出する家庭が増えています。電気代をあまり気にしないで済む高断熱の賃貸住宅へのニーズが高まっているのかもしれません。
また今回の発表では、断熱性能の高さは単に省エネだけでなく健康面でも注目されていると指摘しています。断熱性能が高く、外気の影響を受けづらく室温が安定している家では、ヒートショックや熱中症のリスク軽減、結露やカビの防止など、子どもも高齢者も全世代にわたって健康上の利点が認識されつつあります。
2024年4月から「省エネ性能表示制度」がスタートし、賃貸物件の広告にも省エネレベルの表示が求められるようになりました。物件検索サイトであるSUUMOでも表示物件が増加しているようで、賃貸市場でも断熱性能が重要な選択基準の一つになると予想しています。
「断熱新時代」を先取るように、氷点下の北海道でも暖房費が6000円ほどの「スーパー断熱賃貸」が人気を博しているようです。これから、高断熱・省エネ性能が重要な選択基準となり、新たな付加価値を生み出す可能性は大いにありそうです。断熱性能アップが賃料アップの切り札になる時代がくるかもしれません。
賃貸物件(貸室)という商品づくり
賃貸経営されるオーナー様の目的はさまざまです。たとえば相続税対策もそのひとつです。でも、たとえ土地や建物の相続税評価を下げることができたとしても、赤字経営でよいわけではありません。赤字の不良資産を受け継いだ子や孫は大変ですよね。
なので、さまざまな目的のオーナー様に共通している目標は、「収益を挙げ続けること」なのです。では、収益を増やすにはどうすればいいでしょうか? 家賃収入を増やして運営コストを減らせばいい。シンプルで正しい答えですが具体性に欠けますね。
そこで今回は、収入を増やすための「賃貸物件という商品づくり」というテーマでお話しします。
賃貸物件(貸室)は商品である
ご所有の賃貸物件および貸室を「商品」として考えたことはありますか? ふだんは意識していないかもしれませんが、そもそもの「商品」について、少し考察してみましょう。
たとえばラーメン屋さんなら、お客様に食べていただくラーメンが商品ですから分かりやすいです。毎日、お客様の前でラーメンを作る店主(オーナー)は、一所懸命に“商品づくり”をしています。
一方で、アルバイトもラーメンを作っていますが、彼がやっているのは“作業”です。商品づくりと作業は、見た目は同じようですが、完成品には、わずかでも差が生まれるものです。店主(オーナー)は、目の前のお客様に美味しいものを提供しようと汗をかいているので、差が生まれて当然なのです。
ところで、ラーメン屋さんの商品は「美味しいラーメン」だけではありません。店の雰囲気、注文のしやすさ、提供されるスピード、接客対応なども商品です。
さらに言えば、店の外にできる行列や、ラーメンづくりのパフォーマンスさえも商品といえるかもしれません。繁盛しているお店は、これらの総合力で支持されているわけです。
良い商品の条件とは?
さて、賃貸物件(貸室)という商品について考えましょう。良い商品としてすぐに思い浮かぶのは、「築年数が新しい」「最新の設備」「収納が多い」「ゆったりした共用スペース」「見栄えのいい外観」「最寄りの交通機関から近い」などですね。
これらは良い商品の条件に違いありませんが「絶対条件」ではありません。なぜなら、対象となるお客様(借主)と提供価格(家賃)が、商品づくりの大前提だからです。前述のラーメンなら、低価格だけど分量が多く脂っこさ
がファンに支持されている人気ラーメン店でも、高級住宅街をかかえる駅立地では苦戦します。逆に2000円のラーメンでも、対象に合致した商品なら通用するのです。
だからこそ商品づくりには、まず「対象となる借主層の設定」が欠かせません。その方たちが容認できる立地か、間取りか、築年数かを考えて決める必要があります。そして、その借主層に合った家賃設定や初期費用の条件や入居審査の条件を決めていきます。
築年、立地は変えようがありませんので、設定した家賃の収入予想範囲で、対象が最も求める、設備の入れ替えや簡易なリフォーム、場合によっては間取り変更を伴うリフォームなどを検討する、という順序ですね。
前味、中味、後味とは何か
商品の提供で、「前味(まえあじ)、中味(なかあじ)、後味(あとあじ)が大切」という説があります。商品をただ売っておしまい、というわけではない、という教えです。賃貸経営では、募集から内見の段階で、この部屋で暮らす良いイメージを与えるのが前味(まえあじ)でしょうか。
このために、前述した、借主層に合わせた賃貸条件やリフォームなどの検討が効果を発揮します。後味(あとあじ)は、退去したあとの関係性になるので、賃貸経営では、それほど重要ではないかもしれません。一番に重要なのは中味(なかあじ)。
つまり入居期間中のサービスという商品力です。この満足が高ければ、(合意更新の地域では)更新のときに、家賃の値上げ交渉が可能になるでしょうし、何よりも「不要な退去」を防ぐことにつながります。入居している期間が永くなるわけです。サービスという商品は、対象とする借主層によって内容は一律ではありません。
ただ、共通の認識として、共用スペースがいつも小ぎれいになっていて、設備等のトラブルに迅速に対応してくれて、共同住宅のルール違反には厳格に対処してくれるという、暮らしやすい環境を提供するサービスが万人に求められています。この中味(なかあじ)は、賃貸経営の商品づくりに大切な要素なのです。
賃貸物件(貸室)は借主に提供する商品である、と考えることが大事です。私たちの賃貸管理も、オーナー様に提供する大切な商品です。オーナー様の商品を顧客に選んでもらい、使い続けてもらう商品づくりが収益最大化の近道ではないでしょうか。
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