2024.10.05

2024年10月の賃貸経営管理ニュース

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賃貸経営に通信簿をつけましょう

今年も残り数ヶ月となりました。オーナー様の賃貸経営は満足な一年を終えることはできそうですか︖ 小中学生の頃は、学期ごとに通信簿で評価されていましたが、賃貸経営にも通信簿をつけてみてはいかがでしょうか

その目的は、賃貸経営の成績を客観的に知ることですが、大事なのは、その評価を正しく理解して、次の行動に活かすことです。

さて、どんな数値で一年を評価すればいいか、これが問題です。たとえば「稼働率」。一年間で、オーナー様の貸室が賃貸借契約によって埋まっていた割合です。「平均入居率」といってもいいでしょう。とても役に立つ数値ですが、一年の実績を稼働率だけで評価するのはお勧めしません。

その理由は、もし適正賃料よりも安い条件で貸し出されていたら、それが原因で部屋が埋まっているのかもしれないので、正しい評価とならないからです。あるいは、過度なフリーレントや、募集業者への入居斡旋のお礼金を多額に払っている場合も同様です。もちろん、入居サービスや適度な営業経費を否定するわけではありません。

つぎに「収益」。オーナー様の賃貸経営の目的のひとつに、必ず収益の確保が含まれているはずですから、通信簿のひとつに掲げたい数値です。しかし、これも、収益という数値のみで評価するのはお勧めしません。

その理由は、もし戦略的に、3年か5年の期間を見据えて投資をした場合は、単年度の収益では正しく評価できません。賃貸経営は短期的視点よりも長期的視点でみるべきなので、「今年の収益」だけでは判断できないのです。もうひとつは、収益だけでは来年の課題が見えません。

つまり、収益の結果を見るだけでなく、「あるべき収益」を知ることです。「取り逃がした収益」ともいえます。

「あるべき収益」を知る方法

収益の構造は以下の通りです。

家賃等収入-運営費=収益

したがって、収益を確保する努力とは、収入を上げるか、運営費を下げる、ということになります。

さて、この計算式の「家賃等収入」は、2つの数値から成り立っていることにお気づきですか︖ 

この家賃等収入は結果の数値ですが、元には「満室時の家賃等収入」があり、そこから「発生したロス」を差し引いた値なのです。つまり、

満室時の家賃等収入ー発生したロス

=(結果としての)家賃等収入

となっています。

すると、来年の課題が2つ、みえてくるのではないでしょうか。

1つは、「満室時の家賃等収入を増やすことができないか」という課題です。そのためには、外壁塗装や、貸室のリフォームやリノベーションという投資が必要になるでしょう。一方で、投資すれば運営費が増えて収益を圧迫しますので、判断は総合的にする必要があります。その判断には前述した長期的視点が必要です。

2つめの課題は、「ロスをゼロに近づける」です。満室時の家賃等収入を阻害しているロスの代表は「空室」です。空室を因数分解すると「退去の発生」と「空室期間」です。退去はゼロにはできませんが、不要な退去(施設や管理や他の入居者への不満によるもの)を減らすことはできます。空室期間も、適正な貸室商品化の意思決定、募集の効率化とスピード、原状回復工事期間の短縮など、取り組める項目はいくつもあります。

ここから「結果としての家賃等収入」でなく「本来あるべき家賃等収入」が目標値として浮かび上がるのです。そして稼働率とは、これらの努力結果が表れた数値なのです。

適切な通信簿をつけましょう

以上から、通信簿に採用する数値として「満室時の家賃等収入」「空室ロス」を加えることを提案しています。つまり以下の2つの計算式を、

①満室時の家賃等収入ー空室ロス=家賃等収入

②家賃等収入ー運営費=収益

一年の結果と、来年の目標と、両方を併記することで、「今年の反省と来年は何をすべきか」が明確になる、ということです。

さらに付け加えると、リフォームやリノベーションなど、多額の費用を投資する計画のときは、目標計算式は3年か5年の表を作る必要はあります。運営費は単年度だけでは本当の評価とならないからです。

この通信簿は面倒だと思います。でも、経営に事業計画が必要なことに異論はないでしょう。賃貸経営は事業計画がなくても運営できますが、知らないところで機会損失を起こしているかもしれません。それに気づかないで、もし手元のキャッシュが失われているとしたら、すごく勿体ないですね。

適切な通信簿をつけることをお勧めいたします。

空き家活用の移住制度、相続土地を国に返還、ほか

【移住促進】賃貸住宅の建設に補助金活用

複数の自治体で空き家を活用した移住施策を進めていますが、「若い子育て世帯や女性には古い家は住みづらく、大きな家を持て余してしまう」という声が挙がっていました。

そこで兵庫県養父(やぶ)市では、子育て世帯や若者夫婦、単身女性のニーズに合う新築の集合住宅を増やして移住や定住を促進する、という制度を開始しました。これは、民間集合賃貸住宅の建設を支援する新たな補助金制度を創設したもので、この補助金は、養父市内で集合賃貸住宅の建設を行う事業者を対象としています。

補助金の額は建築費の3分の1で、1戸あたりの上限額は300万円です。ただし、レディースマンション(女性専用)の場合は、上限額が400万円に引き上げられます。

補助の対象となる住宅には、4戸以上の規模であること、敷地内に1戸あたり1台以上の駐車場を確保すること、各戸に専用の玄関・トイレ・浴室・台所を設置することなどの条件があります。

さらに、実績報告の提出日までに入居者募集を開始し、その開始日から10年間は子育て世帯や若者夫婦(レディースマンションの場合は単身女性)に限定して募集を行うことが条件となっています。

また、補助金の額の確定通知日から10年間は維持管理することが求められます。事業者の選定は公募形式で行われ、今年度は10戸分の助成を予定しています。

これから賃貸住宅を建てるオーナーにとっても補助金は有り難い仕組みです。成功すれば、同様の取り組みを行う自治体もでてきそうです。

【相続土地の国有制度】返納土地667件

不要なうえ、管理費や固定資産税や管理責任が課される土地を、国へ返還できる相続土地国庫帰属制度が2023年の4月に施行されて1年以上が経過しました。

法務省が発表した統計によると、2024年7月末時点での申請総数は2,481件に上りますが、実際に国有化された土地は667件にとどまっているようです。

申請された土地の内訳を見ると、田畑が930件と最多で、次いで宅地889件、山林391件となっています。一方、国有化されたなかでは宅地が272件と最も多く、農用地203件、森林20件と続きます。

気になるのは却下・不承認件数と取下げ件数です。却下は11件、不承認は30件と比較的少数ですが、取下げは333件もありました。却下や承認されない理由としては、通路として使用されている土地、崖のある土地などが挙げられています。原則として建物がある土地、賃借権が設定された土地は承認されません。

この制度の申請には1筆あたり1万4000円の審査手数料がかかるうえ、審査に通過した場合、土地を管理するのに必要な10年分の標準的な費用負担が必要になります。金額は土地の種類や状況によって異なりますが、原則として1筆あたり20万円ほどのようです。法務省によると制度開始から5年をめどに制度の適用範囲や条件の再検討が予定されています。

高齢化と人口減少が進む中、不要な土の管理に苦しむ地主さんの利用は増えそうです。本当は崖地など危ない土地ほど国に管理してほしいところですが、より使いやすく効果的な仕組みへの改善が期待されます。

【AI活用】賃貸住宅管理における可能性

近年、米国では賃貸住宅管理にAIを活用する動きが加速しています。現地メディアなどによると、ニューヨークのスタートアップ企業EliseAI(エリーゼ・エーアイ)は、入居者とのコミュニケーションの90%を自動化するサービスを開発し、米国の大手賃貸住宅管理会社の70%で利用されているそうです。

同社のサービスにはAIチャットボットと呼ばれる機能があります。これは、「チャット(会話)」と「ロボット」を組み合わせたもので、入居者や部屋探しをする人の質問にAIが自動で返答するプログラムです。

24時間対応が可能で、管理業務の効率アップ、入居率の向上、入居者満足度の向上など、さまざまな好影響がでています。導入した賃貸住宅では家賃滞納が平均50%も減少したそうです。

同社によるとAIが日々の問い合わせ対応や契約更新の案内など日常業務を処理するので、管理会社やオーナーは経営の中枢業務に集中できるとのこと。また、物件紹介や内見予約をAIが24時間行うことで、潜在的な入居者の取りこぼしを防ぐことができていると利用企業にも好評です。

日本でも賃貸管理の現場は人手不足が深刻になっており、業務効率化は喫緊の課題です。賃貸オーナーにとってもメリットは大きいと思われます。日本の大手アパートビルダーや住宅メーカーなどもAIチャットボットを導入するなどしており、AIとの共存と上手な活用が重要になりそうです。

築古物件を子供が引き継がない問題

築25年の居住用賃貸物件を所有しています。総戸数は12戸ですが、設備も古く空室が半分近くで子供が「引き継ぎたくない」と言っています。相続対策も大事ですが、子供には好んで受け継いでほしいと思います。良い方法はありますか?

収支が悪く管理も面倒な賃貸物件を受け継ぐことを嫌がる気持ちは理解できますね。建物を取り壊し、新たに借入金で賃貸マンションを建てる、という選択もありますが、これは大ごとです。築25年ですから、まだまだ壊すのは勿体ないとも思います。建物を取り壊し、更地のまま所有するか、売却して現預金に替えるというのでは、相続対策から離れてしまいますね。

このような場合は、「節税よりも収益の改善」を優先させた方がよいと思います。儲かる不動産ならお子さんも「もらってもいいかな」と考えを変えてくれるでしょう。

そのために、ある程度の費用をかけて、外壁塗装と、各部屋をリフォームかリノベーションする、というのが一つの提案です。「お金がかかるのか!」と思ったかもしれませんが、それが相続対策のポイントになります。これは「評価を下げて、価値を上げる」という戦略になります。具体的に説明しましょう。

仮に、外壁塗装と5部屋のリノベーションで1500万円を投資したとします。もちろん、お客様が好む色やデザインの外壁塗装と、対象とする入居者層に支持される工事内容、費用対効果を考慮したリノベーションでなければいけませんね。これで5部屋が埋まり満室になれば家賃収入が格段に増えます。費用の支払いは、現預金を減らしても借入れでも、どちらでもよいです。

さて、1500万円をかけて、物件の価値も高まり、家賃収入も増えましたが、建物の相続税評価は増えていません。ここがポイントです。さらに現預金が減るか借入金という負債が増えているわけですから、トータルの相続税評価は下がっています。これが、「評価を下げて、価値を上げる」という戦略の種明かしです。

ご存じの通り、賃貸建物には貸家評価という評価減がありますが、入居率が悪いと相続時の評価が違ってしまうので、つねに満室近くを維持しておくことも大事な対策になります。それがお子さんの「引き継ごう」という意欲につながります。

ちなみに、この外壁塗装とリノベーションの概要については、「資産評価を上げない」ことと「収支計算を長期的にしっかり行う」ことが大前提です。

ご相談されたオーナー様が、どのように賃貸管理されているか分かりませんが、お子様が賃貸経営を面倒と感じていらっしゃるなら、オーナー様に代わって、オーナー様の意思を尊重した賃貸管理を代行する会社に依頼してください

賃貸経営されるオーナー様は、それぞれに必要なキャッシュフローや、10年後20年後のビジョンが異なりますから、それに合った賃貸管理を提案する不動産会社を選べば、お子さんの不安も減るでしょう。

さて、このあとの課題についても軽く触れておきましょう。オーナー様は元気で長生きされるわけですから、収支が改善することで現預金が蓄積されて相続資産が増えてしまうという、嬉しくも悩ましい問題が生じます。

そのための対策として、建物だけをお子さんに生前贈与しておくという手段が、このあとの検討課題となるかもしれません。これは、オーナー様が60歳以上、お子さんが18歳以上なら、贈与税の精算課税制度を選択して、賃貸建物だけをお子さんに生前贈与することで、その後の家賃収入をお子さんに移転させる、というものです。

オーナー様は、賃貸マンションの収入がなくなるので所得税対策にもなります。しかし良いことばかりでなく、考慮すべき点がいくつかあります。紙面の都合で詳述できませんが、まず、贈与税が非課税になるのは2500万円までです。つぎに、相続発生時には遺産に贈与財産をプラスして相続税が計算されるので節税にはなりません。

贈与から年数が経過して建物の評価が下がっていても、相続計算に組み入れるのは贈与時の建物評価となります。そして、小規模宅地等の評価の特例を活用する場合は、お子さんと生計を一つにしておく必要があります。この辺りは複雑になりますので税理士さんにご相談ください。