- 2024.11.03
度重なる迷惑行為の賃借人に無催告解除は認められるのか?
今回は、アパートの賃借人が行った隣人への度重なる迷惑行為に対し、賃貸人が起こした賃貸借契約の無催告解除と建物明渡し訴訟の顛末を解説いたします。
令和元年5月に入居した賃借人が、2ヶ月も経たない7月初めから迷惑行為を始めて、他室の住人だけでなく、迷惑行為をしている賃借人までも110番通報をして警察官が駆け付ける事態が複数回ありました。
貸主は何度か注意しましたが改善がみられないので、約5ヶ月が経った段階で、賃借人に対し迷惑行為を理由として賃貸借契約解除の内容証明郵便を送付して明渡しを求めました。
このような、賃借人が他の住民への迷惑行為でトラブルを生じさせた場合は、賃借人の債務不履行(近隣住民とトラブルを起こさないように努める義務の違反)に該当しますので、契約違反を主張して契約解除できれば、退去させることが可能となります。
しかし、賃貸借契約の解除では「信頼関係破壊の法理」が適用されるので、認められるためには契約違反の程度が、賃貸人と賃借人との信頼関係を破壊するほどであることが必要です。
このため、裁判となった場合には、
- 行為の程度と期間・回数はどのくらいか
- 行為によってどんな結果(悪影響)が生じたか
- 行為に対して賃貸人側はどんな対処をしたか
という点が問題となるのですが、解除の可否についての明確な基準がないため、公表されている裁判例をみて、その傾向を探っていく必要があります。上記で紹介したケース結果は、東京地方裁判所令和3年6月30日の判決で知ることができるので紹介いたします。
まず裁判所は、賃貸人側からの契約違反に基づく無催告の解除を認めました。その理由について以下のように判断しています(一部中略)。
①「被告(迷惑行為をした賃借人)は、何ら合理的な理由がないにもかかわらず、夜中や明け方に他の居室を訪問し、インターホンを鳴らす、玄関ドアをたたく、玄関ドアを勝手に開けるなどの行為に及んだものであり、本件賃貸借契約書の約款12条4号の『粗野又は乱暴な言動により、他の入居者に迷惑・不快の感を抱かせるおそれが明らかな場合』といえるので解除事由があるものと認められる。」
②「また、被告が原告(賃貸人)により度々の注意に従わなかった上、被告の上記各行為によって、102号室及び201号室が一旦空室又は空室となる見込みとなり原告が損害を被ったことなどの事実関係によれば、原告と被告との間の信頼関係が著しく損なわれる行為に当たるべきであるから、本件賃貸借契約の約款15条8号の解除事由があるものと認められる(なお、原告による解除の意思表示後にも被告による迷惑行為が継続したことで、令和2年3月に本件建物の被告以外の全住人が退去したので、原告と被告との間の信頼関係が著しく損なわれたままであることが認められる)。」
以上のように賃貸人の主張が認められて明け渡し判決が言い渡されました。
本件は、迷惑行為の発生から契約解除の通告まで5ヶ月程度という比較的短い期間で、裁判所が契約書の無催告解除条項(債務不履行があったときに催告をしないで契約解除できると定めたもの)の適用を認めた点で特徴的といえますが、それだけ賃借人の行為の悪質性が高かったと言えます。他室の全賃借人が退去してしまったことも大きかったといえるでしょう。
なお、このような事案では、賃借人の迷惑行為をどのように裁判で立証するか、ということが課題となりますが、本件では、賃貸会社の従業員が作成した「時系列」「クレーム管理」と題する書面と従業員の陳述書があり、それを裁判所は「具体的な内容が記載されており不自然又は不合理な点もみられないから信用することができる」と判断していますので、この点においても参考になる事例です。
<本誌編集者より>
このような入居者による迷惑行為トラブルで裁判まで発展するケースは多くはないと思われます。
トラブルが発生したら、事実調査をして、必要な注意をし、それでも繰り返されるときは、何度でも注意をし続けます。そして、その記録を残しておきます。それでも止まないときは、最後の手段として契約解除通告をするのですが、その時期の決断が貸主側として重要です。遅すぎると、他の借主の被る迷惑が大きくなり、最悪は退去となってしまいます。
そのために、行為のたびに説得と注意をし、記録を残し、ある程度の期間で解決しないなら契約解除通告に踏み切り、それで退去しないときは明け渡し訴訟という最終手段となるわけです。その最新の裁判事例をご紹介いたしました。
900万個の空き家問題と地下風俗利用のリスク
900 万戸の空き家問題と不動産業の役割
総務省の調査によると、2023 年10月時点で全国の空き家は 900 万戸に上り過去最多を更新しました。5年前の前回調査から 51万戸増えて30 年で約2倍となりました。
このうち、居住や使用目的のない「放置空き家」は 385万戸。そのうちの2割強では腐朽・破損が確認されたようです。残る約 515 万戸は賃貸・売却用、別荘などですが、この中にも管理が不十分で放置状態の空き家があるとみられています。
国土交通省は空き家対策に本腰を入れ始めており、「空き家管理業」への参入を促すため、今年6月に「空き家管理業に関するガイドライン」を作成しました。これによると、空き家管理業の主な業務は、定期的な訪問による換気や点検、除草や庭木の手入れ、災害後の破損チェックなどです。
以下の 3 パターンをモデルとして上げています。
- 空き家の管理相談ケース
困っている空き家所有者の相談窓口になる。例えば、相続で実家を引き継いだけど、何から始めればいいかわからない人の受け皿として機能する。 - 建物外部のみの管理委託ケース
所有者が家の中の整理をしている間、建物の外側だけを不動産会社が管理する。相続した実家の中はまだ片付いていないので、他人に入ってほしくないけど、建物の外側や庭の様子を定期的に確認してほしいといったニーズに応える。 - 建物内部を含む全面的な管理委託ケース
不動産業者が建物の内外を含めて全面的に管理を担う。相続した実家が遠方にあり、自分で管理できない。将来の活用や売却に備えて、良い状態を保ちたい人からの需要を想定している。
ガイドラインでは、空き家の管理ビジネスから、売買、賃貸の仕事につながるメリットを強調していて、国が問題解消のために不動産業界の力を欲しているのがよく分かります。
隠れ空き家を見つけるシステム開発中
国交省では空き家を判定できるシステムを開発中です。これは、地図上の建物にカーソルを合わせると、空き家の確率をパーセントで示してくれるもの。上水道使用状況、住民基本台帳、民間地図情報などの複数のデータを分析し、空き家かどうかを判定するシステムになるようです。
日本の空き家の数は膨大であり、冒頭の総務省の統計も調査ごとの変動幅が大きく、実態把握の難しさが指摘されています。新システムによって空き家が見つけやすくなれば、不動産取引が活性化し、リフォームや賃貸、売買といった新たなビジネスチャンスになる可能性があります。
また、国や自治体などから空き家問題解決への支援が増えれば、不動産オーナーにとってもプラスになりそうです。
知らない間に「地下風俗利用」のリスク
「賃貸住宅が知らぬ間に違法な目的で使用されている!」という事例が増加しています。
今年9月、東京都内で違法な風俗店営業が摘発されました。不動産会社の社長が、サブリース物件の一室を風俗経営者に仲介し、契約時に管理会社やオーナーには虚偽の情報を提出していたこと明らかになっています。
店舗型の風俗店は、全国的に都心部での新規開業が難しくなっており、マンションの一室を利用した「地下風俗」が増加傾向にあります。特に、管理人のいないマンションや、管理体制が緩い物件が狙われやすいようです。定期的な物件の巡回や入居者の職業・使用目的の厳格な審査が必要のようです。
過去にオーナーが逮捕された事例も
大阪市の雑居ビルで、違法なわいせつDVD の販売店に部屋を貸していたビルオーナーが逮捕された事件もあります。オーナーは警察から複数回の警告を受けており、テナントの違法性を認識しながら賃貸していたことが問題視されました。たとえ直接的に関与していなくても、違法性を認識しながら賃貸を継続することは犯罪とみなされる可能性もあるようです。
定期的な物件の用途確認や、疑わしい活動が見られた場合は、すぐに警察へ相談する必要があります。
都内の賃貸管理会社経営者は「不自然な人の出入りや、騒音などの苦情があった場合は迅速な調査が必要です。また、近隣住民からの情報にも注意して、怪しい要素があれば警察に対策を相談しています」と危機感を高めています。
賃貸物件が犯罪に利用されるリスクは、後々まで風評被害が続く可能性もあり、賃貸オーナーにとって深刻な問題です。日常的な警戒と問題発生時の迅速な対応が不可欠といえるでしょう。
入居率を高くできる原状回復工事とは?
平成10年頃の原状回復とは「貸室内を入居時の状態に戻すこと」であり、費用の大半は借主さんが負担するものでした。しかし同年3月に、当時の建設省から「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が発表され、徐々に「通常使用による損耗は貸主負担、故意・過失による損耗は借主負担」という、現在の認識に変化した経緯があります。
しかし私たちは原状回復工事を、「貸主が負担しなれればならない」とネガティブに捉えるのではなく、「次の入居者募集に向けて、早く、高く貸すための重要な手段」と考えています。
原状回復工事は「賃貸経営で稼ぐ収益の健全化」のために、上手に効率よく行う必要があるのです。そこで今回は、「原状回復工事のあり方」についてレポートいたします。
年に何回か、賃貸管理スタッフが集まって、お互いのノウハウや経験を披露しあう、という会合が開かれます。今回は「原状回復工事の失敗例」というテーマでしたので、いくつかをご紹介しましょう。
ケース①「クロスは壁だけでなく天井も」
入居5年で退去した部屋の原状回復工事を検討したとき、壁クロスの張り替えは当然として、迷ったのが天井のクロスだった。壁と同様に経年変化しているので張り替えを提案したが、オーナー様の「目立たないから」という言葉に従ってしまった。
しかし工事が完了すると、新しい壁のクロスと、経年変化した天井のクロスの差が際立って、余計に古く見えるように感じた。そして案の定、内見のお客様に「天井が気になった」と言われてしまい、この部屋を決めるのに数ヶ月の時間を要した。
いま思えば、オーナー様は「目立たないから張り替えない」と強く主張したのではなく、「張り替えなくてもいいのではないか?」と尋ねたにすぎないので、プロとして強く提案すべきだった。
天井が綺麗になることで資産価値は向上するのだし、数万円の経費カットと数ヶ月分の収入ロスは割に合わない結果となり、オーナー様の収益を損ねたことを反省している。
ケース②「細かな部位の劣化を見過す」
原状回復工事のたびにクロスや畳は新しくなるが、見過ごされて古いままになっているのが、木部の傷、コンセントやスイッチカバーの変色や劣化など。築後10年を過ぎると、周りの壁や畳が新しくなることで余計に目立つこともある。
繁忙期のお客様は期限に迫られてお部屋を決めていくが、閑散期のお客様は「良い部屋があったら引っ越そう」と考えているので、こういう細かな箇所もチェックされる。それが原因で決めていただけなかったことがある。
ケース③「まだ壊れていないから」
ある原状回復工事で、15年を経過したエアコンの取り換えについて協議したところ、「まだ壊れていないから」というオーナー様の一言で、クロスの張り替えだけで済ますことになり、まもなく入居が決まった。
しかし、暑くなったころ、そのエアコンが故障し、入居中に取り換えることになったのだが、新しいエアコンはコンパクトなので、クロスのはじが欠けてしまい、再度のクロス張り替え工事が必要になってしまった。
入居中の修繕工事は、期日と時間調整に手間が取られ、家具などを汚さないための養生も必要になるので、空室時よりも割高になる。オーナー様には、二重のクロス工事と割高な費用を負担させてしまうことになった。
これらの失敗例から私たちが学んだことは、
- 壁や床以外の細かな部分の経年劣化にも気を配る
- 経費判断は短期視点でなく長期視点で答えを出す
- 原状回復とリフォーム工事を合わせることでコストカットの現実と重複工事を防ぐ
以上の3点です。これからの原状回復工事に「早く高く貸せるための手段」という目的を持たせることが重要です。
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