2025.03.07

2025年3月の賃貸経営管理ニュース

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地震災害がもたらすリスクとは

日本は地震大国です。地震発生率が低いとされていた熊本、北海道、能登半島でも大きな災害に見舞われたことを考えると、国内で安全と言えるところはないようです。そして、地震災害は賃貸経営にも大きな影響を及ぼします。今回からシリーズとして「賃貸経営と地震災害」について特集してまいります。


そのテーマは、

 第1回 地震災害がもたらすリスクとは
 第2回 オーナーが準備できること
 第3回 地震に備えるための保険加入を考える
 第4回 起きた時とその後にやるべきこと

以上の4回に分けてお伝えする予定です。
第1回は「地震災害がもたらすリスクとは」です。

地震が賃貸経営に与える2つの主要なリスク

賃貸経営における地震災害のリスクは、大きく分けて以下の2つあります。

【1】 想定外の修繕費負担と家賃収入の減少

地震による建物被害には全壊・半壊・一部損壊など程度は様々ですが、いずれの場合もオーナーには多額の修繕費が発生します。このリスクを軽減できるのが地震保険への加入ですが、その詳細は第3回目の「地震に備えるための保険加入を考える」で解説する予定です。

さらに、修繕期間中は家賃収入が途絶えるので、これも想定外の甚大な被害です。少しでも建物被害を軽くするために必要な耐震補強はしておくべきです。この詳細は第2回目の「オーナーが準備できること」でお伝えいたします。

【2】 損害賠償請求されるリスク

今回のメインテーマである「大家さんが損害賠償請求されるリスク」です。

地震による建物倒壊で入居者が下敷きになったり、外壁の崩落で怪我を負うといった被害が発生すると、その被害者や遺族から建物所有者が訴えられる、というケースが実際に起こっています。

これは、建物所有者が建物・設備の不備によって他人に損害を与えた場合、責任を負うと法に規定されているからです。「建物が壊れるほどの大きな地震は不可抗力なのに、なぜ大家が責任追及されるのか?」という疑問はもっともですが、あくまでも「建物・設備に不備がある場合」という条件がつきます。

その「不備」とは何なのか? これが気になるところです。

リスクを高める「建物の耐震性能」と法的背景

その答えのひとつは「建物の耐震性能」です。

ご存じの通り、建築時のベースとなる建築基準法という法律で耐震基準が定められています。1950年(昭和25年)にこの法律が制定されて以来、地震被害の大きかった年などをきっかけに複数回の改正が行われてきました。

1950年
(昭和25年)
建築基準法の制定耐震基準が初めて
法律で規定される。
1981年
(昭和56年)
建築基準法耐震基準の
大幅改正(新耐震基準)
1978年の宮城沖地震を受け、
構造計算や強度要件がより厳格化。
旧基準と新基準の分岐点。
1995年
(平成7年)
耐震改修促進法の施行新耐震基準を満たない建物は、
耐震診断・改修を積極的に進めることを
促す法律が始まる。
2000年
(平成12年)
建築基準法および建築
基準法施行令の改正
木造建物に対して、
より厳しい耐震基準を設定。

1978年(昭和53年)の宮城沖地震による被害を受けて、耐震基準が大幅に改正されました。これらの法改正により、現在の基準に満たない建物は「不備」と判断され、賠償責任を問われる可能性が高くなっています。

実際に損害賠償の判決が下された事例をみてみましょう。

実際の損害賠償事例から学ぶ

1995年の阪神淡路大震災では、神戸市の賃貸マンションの一階部分が倒壊し、入居者4名が死亡する悲惨な事故が起こりました。そして、犠牲者の遺族らが建物の所有者である賃貸人に対して損害賠償を求めました。

裁判所は、当該建物が建築当時の基準を満たしておらず、通常有すべき安全性を欠いていたと判断しました。そのため、建物の設置や保存に瑕疵があったと認定され、所有者に1億2900万円の損害賠償の支払い命令が出ました。

この判決は、通常予測される地震に耐えられる構造か、建設当時の耐震基準を満たしているか、などが基準となっているようです。

大家さんが今できること

では、建物所有者としては、これらのリスクにどう備えればよいのでしょうか? 以下にまとめてみました。

【建物の耐震診断を実施する】

ある程度の築年を経ているのに、まだ耐震診断をしていないなら、一度点検してはどうでしょうか。特に外壁のひび割れや劣化部分は見逃されがちです。

【耐震補強を行う】

検査で必要と診断された補強は、実施しておいた方が安心です。補助を行っている自治体もあるため、確認してみましょう。詳細は次回の「オーナーが準備できること」でお伝えいたします。

【地震保険に加入する】

地震による損害に備えるには、地震保険が重要です。こちらも3回目のレポートで詳述いたします。

賃貸経営のリスクはゼロにはできませんが、最小限に抑えることは可能です。シリーズを通して、ご一緒に考えていきましょう。

賃貸借契約における違約金条項の定めと消費者契約法の関係について

賃貸借契約に消費者契約法は適用されるのか?

消費者契約法は、「消費者と事業者」との間で締結される契約に適用されます。消費者同士の契約には適用されません。

賃貸借契約の場合、賃貸人であるオーナーは、たとえ個人であってもすべて事業者とみなされます。

したがって、賃借人が個人で居住目的である限り、その賃貸借契約は消費者契約法の適用を受けることになります

消費者契約法における違約金の制限について

消費者契約法は、賃貸借契約の多くの部分に影響しますが、今回は違約金の制限についてのみ解説いたします。

まず、賃貸借契約において違約金を設定する契約条項がある場合、消費者契約法9条と10条が適用され、無効となる場合があります

消費者契約法9条の1項1号では、
① 契約の解除について違約金を定める条項で、
② その違約金の額が、契約を解除されることで生ずる平均的な損害(貸主が被ると想定される平均的で実質的な損害)の額を超える場合、
その超過分は無効とされています。

したがって、たとえ賃貸借契約で中途解除の違約金を定めても、賃貸人の平均的損害の額を超えた部分は無効と判断されます。

また、消費者契約法10条では、消費者の権利を制限し、または義務を加重する条項であって、信義則に反し、消費者の利益を一方的に害するものを無効とする規定があります。

この規定も、違約金条項に適用される可能性があります。

賃貸借契約における違約金の設定

住居の賃貸借契約における違約金条項は、一般的に以下の2つのケースで定められます。

賃借人が契約を中途解約する場合
契約期間満了後(解除後)に明け渡しが遅延した場合

これらの違約金に消費者契約法が適用されるのか?
また、適用される場合には消費者契約法違反とならないために、どの程度の違約金額であれば問題がないのか?

これらを検討する必要があります。

次項では、①の違約金について説明します。

中途解約の場合の違約金と消費者契約法の適用の問題

賃貸借契約書でよく用いられるのは、「借主が1年未満で解約した場合,違約金として賃料の●カ月分を支払う」とか「借主が契約期間中に解約する場合は●日前に申し入れるか、●日分の賃料相当額を違約金として支払うこと。」といった条項です。これは契約解除の違約金を設定する条項となりますので消費者契約法9条1項1号が適用されます。

そうすると、この違約金の額が「契約が解除されることで貸主が被る平均的な損害額」を超えないようにする必要があります。ここで想定される「貸主が被る平均的な損害額」とは、たとえば、空室期間の家賃相当額や募集にかかる費用などと考えられますが、違約金として賃料の何カ月分までが問題がないといえるでしょうか?

この点、**国交省が公表している「賃貸住宅標準契約書」**では、賃借人からの中途解約条項において、

「解約申入れの日から30日分の賃料を甲(貸主)に支払うことにより、解約申入れの日から起算して30日を経過する日までの間、随時に本契約を解約することができる。」

と規定されています。

このため、一般的な個人の居住目的の賃貸借契約書のひな形では、違約金を1カ月間とする契約書も多く見られるところです。

もっとも裁判例をみると見解が分かれており、この標準契約書について**「一般的なひな形を示したものに過ぎない」**としたうえで、

「一般的な賃貸借契約でも解約予告期間を2カ月とするものがみられるので、この2カ月分という違約金が、平均的な損害の額を超えるものであったと認めることはできない。(中略)」
(東京地裁平成27年11月4日判決)

と述べている事例もあります。

他方で、

「次の入居者獲得までの一般的な所要期間として1カ月は相当と認められる」

として、1カ月を超える分は消費者契約法に違反するとした裁判例もあります(東京簡易裁判所平成21年8月7日判決)。

この「一般的な募集期間が1カ月」というのが実情に比して短すぎるのではないか、という問題意識はありますが、裁判例をみても、残念ながら2~3カ月の違約金を正面から認める事例が少ないのが事実です。

もし2カ月としたい場合は、中途解約によって2カ月分の損害が発生する事情の存在を主張できるかどうかがポイントになるといえるでしょう。

弁護士 北村亮典  *この記事は、2025年1月31日時点の法令等に基づいて書かれています。 

賃貸経営の未来を変える!
住宅の省エネ化支援&顧客情報の漏洩対策のポイント

賃貸住宅の省エネ化と情報管理が重要な課題となっています。総額199億円の支援策が導入され、断熱改修が加速。一方で、サイバー攻撃による入居者情報流出が深刻化し、オーナーにはセキュリティ対策の強化が求められています。

都が賃貸住宅の断熱支援に総額199億円

東京都の小池百合子知事は2025年度予算案に賃貸住宅の省エネ化促進策として総額199億円を計上することを発表しました。

これは都内の住宅において約半数を占める賃貸住宅の断熱性能向上の底上げを目指すもので、2030年までに約100万戸の改修を目標としています。2024年度の予算額は約2.5億円だったため、大幅な増加となります。

注目すべきなのは、断熱工事費用の一部補助に加え、専門家による省エネ診断の無料派遣制度を新設する点です。診断は1棟あたり120万円を上限に全額が補助され、オーナーは光熱費などのエネルギーコストの分析から具体的な改修プランまで、専門家のアドバイスを受けることができます。

賃貸住宅市場の大きな転換点となる可能性があります。すでに新築住宅については今年4月から建築物省エネ法が施行され、全ての新築物件に省エネ基準適合が義務付けられるようになりました。この流れを受け、既存の賃貸住宅でも省エネ性能が資産価値を左右する要素となるかもしれません。

最新の入居者ニーズからも裏付けられます。物件検索サイト運営のLIFULL(東京)が2024年9月に実施した調査(一都三県在住の20~49歳の男女1,000名対象)によると、引越し検討者の70.2%が物件選びの際に省エネ性能を「意識する」と回答。

特に賃貸物件への入居検討者の74.7%が「電気・光熱費を安くしたい」と答えており、購入検討者よりも10%以上高い結果となっています。賃貸物件の入居者に若年層が多く、光熱費などの月々のコスト削減ニーズが特に高いことを示しています。

さらに、41.9%が「環境への負荷を軽減したい」と回答するなど、環境配慮への意識の高まりがうかがえます。(LIFULL HOME’S「物件の省エネ性能に関する意識調査」2024年9月実施)

今回の補助制度は、都内の賃貸住宅オーナーにとって省エネ投資の初期費用を抑えるチャンスになるのは間違いありません。特に、窓やドアなどの断熱改修は工事の難易度が低く、部分的な改修から始められます。

東京都の先行事例を受けて、他の自治体でも同様の支援策が展開される可能性があります。省エネ化は社会的要請であると同時に、資産価値向上の機会にもなってきました。補助金を活用した計画的な設備投資を検討する時期にさしかかっているのかもしれません。

賃貸経営の新しいリスク狙われる入居者情報

昨今、企業における個人情報漏洩事故が深刻化しています。信用調査会社の東京商工リサーチによると、2024年の上場企業における情報漏洩・紛失事故は189件過去最多を更新しました。

特にランサムウェアなどによる不正アクセス被害が114件と全体の60%を占め、被害規模が拡大しています。ランサムウェアとは、コンピューターシステムをロックしたり、解除の代わりに身代金を要求するウイルスの一種です。

注目すべきは、企業への直接的な攻撃だけでなく、システム業務の委託先が被害を受けることで連鎖的に顧客情報が流出する「二次被害」が増加している点です。

実際に不動産業界でも、九州地方の大手賃貸管理会社がランサムウェア攻撃を受け、入居者や物件オーナーの個人情報が流出した可能性が報告されました。

このような個人情報の流出は、単なる漏洩にとどまらず深刻なリスクを伴います。流出情報が闇市場で取引され、特殊詐欺や闇バイトによる強盗などに悪用されるケースも報告されています。

特に、賃貸住宅の入居者情報には、氏名、住所、電話番号に加え、年収や勤務先といった詳細な個人情報が含まれ、犯罪者にとって魅力的な標的となっています。

賃貸住宅オーナーとして、こうしたリスクにどう対応すべきでしょうか。まず、入居者の個人情報を守るため、管理会社と密に連携することが重要です。

中長期的には、管理会社とオーナーが協力して情報の取り扱いに関連したルールを定めることも視野に入れておきましょう。将来的には万が一に備え、サイバー保険への加入を検討することも必要かもしれません。

情報セキュリティ対策は、もはや大手企業だけの課題ではなくなりました。賃貸住宅経営においても、入居者の個人情報を預かる責任の重さを認識し、適切な管理体制を整えることが不可欠となっています。