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2025.07.08

2025年7月の賃貸経営管理ニュース

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分岐点に立つ賃貸住宅 2025年上半期変わる前提と新たなリスク

2025年上半期 賃貸住宅市場・記者座会

  • A氏:40代前半
    業界20年近いベテラン記者。事件取材が得意で週刊誌など幅広く執筆。
  • B氏:30代中盤
    テクノロジー系ニュースに強いネットメディア記者。
  • C氏:30代前半
    不動産投資にも興味を持つ通信社の記者。

地価上昇の裏で静かに変化している賃貸市場の基盤

A:2025年上半期は賃貸住宅を取り巻く環境が少しずつ変わり始めているね。全国的に地価上昇が続く一方で、トランプ政権の関税政策など予測不可能な問題も出てきている。

B:最新の全国平均の地価公示は、住宅地が2.1%、商業地が3.9%上昇しました。特に東京圏では住宅地が4.2%、商業地は8.2%もの上昇です。こうした土地コストの上昇が新築賃貸の家賃に徐々に反映されていますし、つられて既築物件も上昇してきました。

377万人の外国人入居者と観光バブルの影響

A:まず無視できないのが在留外国人の増加だな。賃貸市場にどんな影響を与えているか?

B2024年末時点の在留外国人は1年で36万人増の377万人となり過去最多を更新しています。賃貸市場に新たな需要を生む一方で、管理や募集対応の課題を生んでいます。

C:生活習慣の違いやゴミ出しルールの違いがトラブルになりやすいのは事実です。ただ、「外国人だから」と入居を拒むのも問題がある。過去に外国人を理由に入居を断った不動産会社に110万円の賠償命令が出ています。

B:ビジネス面からも在留外国人は無視できなくなっていると思う。かつては留学生や単身者が中心でしたが家族で来日するケースも増えています。半導体工場がある熊本県や北海道千歳市では、海外からの技術者家族向けの賃貸需要が急増。千歳市の商業地は37.8%という驚異的な上昇率を記録しています。

C:2024年のインバウンドは過去最高の3687万人で観光地の地価に影響を与えている。地価公示が長野県白馬村や野沢温泉村で住宅地が約20%も上昇。城崎温泉のある兵庫県豊岡市の商業地も20.2%上昇です。こうした観光地では賃貸住宅と旅行者向けの宿泊施設の境界があいまいになってきています。

B:北海道富良野市の北の峰地区は住宅地が31.3%と全国トップの上昇率を記録しました。外国人観光客や別荘需要が主因です。日本全国で「観光客向け」と「地元住民向け」の住宅供給バランスが課題になってきそうですね。

A:こうした地域では地元の人が家賃高騰で住めなくなる問題も出てくるかもしれない。欧州では増えすぎた観光客への不満が高まっているから日本も同じことが起きるか注視しておかないと。

信頼と情報が脅かされる賃貸経営に潜むリスク

C:昨年末に九州地方の賃貸管理会社がランサムウェア被害に遭いました。これは、いわゆる「身代金要求型ウイルス」で、システムをロックして使用不能にし、解除と引き換えに身代金を要求してくる犯罪です。

A:ついに賃貸管理会社も狙われたか。秘密裏に身代金を払って解決している事例もあるようなので被害実態は大きいかもしれないね。

B:東京商工リサーチの調査では、2024年の上場企業における情報漏洩・紛失事故は189件と過去最多で、特に不正アクセス被害が全体の60%を占めていました。

A:賃貸住宅のオーナーや管理会社にとって、入居者情報の流出は深刻なリスクをはらんでいるよ。気をつけていても、システム業務の委託先が攻撃を受けることで連鎖的に情報が流出する「二次被害」も増えているようだ。

C:流出した情報が闇市場で取引され、特殊詐欺や犯罪に悪用される危険性があります。入居者情報は氏名、住所だけでなく年収や勤務先も含まれていますからね。
実際に流失事件の後、被害者を装った詐欺メールが出回ったという報告もありました。セキュリティ意識の低い日本社会を狙っている犯罪組織も多いと聞きます。用心した方がいいでいね。

C:昨年から「アリバイ会社」を使った不正契約が増加傾向で、保証会社任せの入居審査に限界があるという人も多いです。本人確認や在籍確認だけでは巧妙な偽装を見抜けないケースが増えています。

A:偽造した保険証や在職証明書で審査をすり抜けさせる手口だね。アリバイ会社を使っていた都内の不動産仲業者が逮捕されたこともあった。

B:はじめから家賃を払う気もない悪質な詐欺師がアリバイ会社を使うこともあります。                   都内の管理会社は家賃20万円以上の高級賃貸に入居させてしまい、退去させるまでに、取りっぱぐれた賃料は200万円をゆうに超えるとか。

A:借地借家法で入居者は守られるから、なかなか退去させられない。だけど身分を偽って1円も家賃を払わない人間を法律で保護する道理はないよね。

A:晴海フラッグ事件も象徴的だった。

B:東京オリンピックの選手村を改修した「晴海フラッグ」ですね。準暴力団の幹部が他人の名義で賃貸契約していたことが発覚しました。大手デベロッパーが関わっているのに、こうした事態が起きるのかと驚きました。

補助金制度活用で賃貸経営アップデート

C:私の注目は「建築物省エネ法」の完全施行です。2025年4月からすべての新築建築物に省エネ基準適合が義務付けられました。これは2030年にはさらに厳格化される予定です。

A: 建築物の省エネ性能の向上を図るのが目的の法律だったよね。

B:賃貸物件選びでも省エネ性能を「意識する」「やや意識する」と回答した入居希望者が約50%に達したという調査結果もあります。関心が高いですね。(※LIFULL HOME’S調べ )

A:円安が続いてエネルギー費用は高止まりだからな。断熱性が重視されるのは自然な流れだよ。東京都は賃貸住宅の省エネ化促進に199億円の予算を組んだそうだ。

C:そうなんです。都内の住宅の約半数を占める賃貸住宅の断熱性能向上を目指すもので、2030年までに約100万戸の改修を目標としています。

B:一番注目すべきは窓の断熱改修補助金制度でしょう。既存の賃貸住宅の窓を断熱性の高いものに変更する際、最大200万円(1戸あたり)の補助金が受けられます。東京都の先行事例を受けて、地方の自治体でも同様の支援策が展開されるといいですね。期待しています。

下半期に注視する賃貸経営の一手は?

C:ここ最近の一番の課題は人手不足です。不動産業界の賃上げ予定は76.0%と他業界の85.6%より低く、特に中小企業は73.0%です。若い人にとって「不人気業種」扱いされているのが現状です。

A: 仲介部門は土日が休めないことも多いし、管理部門もクレーム対応が多いのが忌避される理由だろうね。

C: 人手不足対策としてスマートロックや無人内見のような「省人化」装備を検討する企業が増えています。

A:スーパーのセルフレジも定着してきたし、飲食店の注文はタブレットやスマートフォンになってきた。賃貸管理や仲介も省人化対応に変化していく部分もあるのかもしれない。

A:業界全体では人手不足を補う効率化ツールが今後の競争力を決めるということか。では、2025年下半期のオーナーは何を意識すべきだろうか?

B:賃貸経営に関係する制度の、チェックと活用を挙げたいですね。補助金・税制・テクノロジーは今後の命綱になります。特に建築費が高止まりしている現状では省エネ関連の補助金は「使える時に使う」という姿勢が重要だと思います。

C:そして「入居者が変化している」ことに注目すべきでしょう。外国人技術者や若いリモートワーカー、シニア単
身など、従来の「会社員世帯」とは異なるニーズを持つ層が増えています。

A:さらに追加するならリスク管理かな。個人情報管理や契約審査の甘さが思わぬトラブルを招くからね。賃貸経営面のリスクは複雑で対応が難しくなっているので、管理会社と一緒になって目を向ける必要がある。

C:変化が大きい時代なので、それを先取りできるようにしたいですね。デジタル化への対応、省エネへの投資、多様化する入居者ニーズへの柔軟な姿勢が、今後の賃貸経営の鍵を握っていると僕は思います。

A:古い前提を捨てて新しいリスクと向き合う覚悟が試されている、ということか。下半期も目が離せない状況が続きそうだ。

賃貸不動産が遺産となったとき、相続人間で物件取得の希望が競合した場合にはどうなるか?

多くのオーナー様のケースでは“何を誰に相続させる”という意思決定はされていると思われますが、万一、それらが不明確だったとき、どのような解決方法があるのか、について解説いたします。

続紛争が起きるケースとは

賃貸用の戸建てやアパートなどは、オーナーが亡くなった時点で遺産になります。すると誰かが「大家業」を引き継ぐことになるのですが、収入がある資産だけに、「自分がやりたい」と希望する相続人が複数出てくることも少なくありません。家族での話し合いがうまくいけばいいのですが、意見が食い違ってまとまらないと、「遺産分割協議」は決裂。調停にまで進む、ということも実際にあります。

取得希望が競合したときの決定方法

遺産分割は、相続人間での遺産分割協議で決めることが一般的ですが、話し合いがまとまらなかった場合は、家庭裁判所での遺産分割調停により遺産分割をする必要があります。調停になった場合、基本的には「代償分割」
「換価分割」のどちらかで分ける形になります。

  • 代償分割:誰か1人が不動産を相続して、他の相続人に現金を支払う
  • 換価分割:不動産を売却して相続分に従って分割する

たとえば、みんなが「自分が大家をやりたい」と言い出した場合は、全員が代償分割を希望している状態になります。このとき「じゃあ、誰がもらう?」という最大の争点が出てくるのです。ただ、誰に渡すかを決める明確な法律やルールがあるわけではありません。
家庭裁判所では、以下のようなポイントをもとに話し合いが進められます。

  • POINT 1:相続人の年齢、職業、経済状況、被相続人との関係
  • POINT 2:相続開始前の占有・利用状況(誰が物件を管理していたか)
  • POINT 3:財産管理能力(管理の実績や適切さ)
  • POINT 4:遺産取得の必要性
  • POINT 5:利用計画(どう活用・再活用するか)
  • POINT6:遺言に表れていない被相続人の意向
  • POINT7:譲歩の有無(代償や別の配慮)
  • POINT8:入札による取得意欲
  • POINT9:取得希望の一貫性

なかでも大きなポイントになるのが、 POINT 2の「相続開始前の占有・利用状況」です。
たとえば、長年にわたって家賃の管理や入居者対応をしてきた子どもと、まったく関与してこなかった子どもが同じように「私が引き継ぎたい」と言っても、裁判所はやはり前者の関わりを重視する傾向があります。
逆に、誰も深く関わっていなかったり、みんなが少しずつ関わっていたという場合は、判断が難しくなり、調停が長引くこともあります。

紛争を防ぐには

では、こんなトラブルを避けるにはどうすればいいのか。ひとつは、オーナー本人が「遺言書」を残しておくことです。「この物件は誰に相続させる」「その理由はこうだ」とハッキリ書いておけば、家族の間で争う余地はぐっと減ります。「長女には管理をよく手伝ってもらったから、A物件は彼女に」というような“気持ち”も一言添えておくと、より伝わりやすくなります。「親が遺言なんて書くタイプじゃない」と感じていても、子ども世代が日頃から関わりを持ち、話し合いの場を設けていくことで、前向きな準備がしやすくなります。


もうひとつは、相続人自身が「実績」を積んでおくことです。もし「将来は自分が引き継ぎたい」と思っているなら、親が元気なうちから物件管理や経営に関わっておくことが大切です。たとえば、家賃の入金をチェックする、修繕の手配に関わる、入居者とのやりとりに立ち会う̶。
こういった日々の積み重ねが、いざというときの大きな判断材料になります。

話し合いがうまくいかず、相続が長期化してしまえば、賃貸経営もストップしてしまいます。そうしたリスクを家族で共有できれば、自然と協力し合う意識も生まれてくるはずです。