- 2024.02.08
国籍を理由とした入居拒否は違法
民間の賃貸物件において、賃貸人は、新たに入居申込みがあった場合に、申込者と契約を結ぶかどうか、また、どの申込者と契約をするかについて、原則的には自由に選ぶことができます。これを民法でいう「契約自由の原則」といいます。
しかし、この原則とは、あくまでも対等な個人同士の契約を前提としたものです。実質的な平等を図りながらも、社会的・経済的弱者を保護するためには、契約自由の原則は修正(制限)されて、契約の締結において差別的取り扱いなどを行った場合は違法と判断される恐れがあります。
この点が問題となるのは、賃貸物件において「外国人お断り」とする場合です。
賃貸人側とすれば、契約自由の原則で、どの入居申込者と契約を結ぶかは自由に決められるのではないか、と考えるでしょう。そうであるとすれば、何らかの理由で外国籍を有する者と契約締結したくないとした場合に、断ることは可能であると考えられるかもしれません。
しかし、外国籍であることを理由に入居申込みを拒絶した場合には、賃貸人が不法行為を問われる可能性があります。実際に損害賠償責任が認められた裁判事例(京都地方裁判所平成19年10月2日判決)を紹介します。
この事例は、外国籍(韓国籍)の入居予定者が、自身が勤務する法人を賃借人として入居申込みを行い、仲介業者から入居審査が通ったと通知を受け、入居申込金や敷金・礼金16万円と前払い賃料など合計約47万円を支払いました。さらに、仲介業者から提示された賃貸借契約書にもサインして差し出しました。
しかし、その段階で、賃貸人側から「住民票が用意できない方は入居を断っている。」と、賃貸借契約の締結を拒否されました。なお、入居予定者は、契約書へのサインの後に外国人登録原票記載事項証明書を提出しており、その直後に賃貸人側から契約の締結ができない旨の返答を受けています。
以上の状況により、入居申込者(法人)と入居予定者は賃貸人に対して、韓国籍であるという正当でない理由で賃貸借契約の締結を拒絶したことは損害賠償義務を免れないとして提訴しました。
賃貸人側は、
「契約直前に外国人登録原票記載事項証明書が提出され,入居予定者が韓国籍であることを初めて知り、会社を賃借人とする契約形式がとられていたことや、必要書類の提出が遅れていたことなどから、入居申込者らが意図的に国籍を秘匿していたのではないかとの疑いを抱き、これでは信頼関係を築くことが不可能であると判断したことから、本件物件を賃貸しないこととした」などと反論しました。
しかし、これに対して裁判所は、
賃貸人は契約直前に入居者が外国籍であることを知ったこと、及び、入居者が外国人登録原票記載事項証明書を提出しているにもかかわらず、これが住民票ではないことを理由に本件物件を賃貸しない、としたことからすれば、賃貸人が賃貸しなかった理由は入居予定者の国籍〔すなわち、入居者が日本国籍ではなかったこと〕にあることは明らかである。
と認定。その上で、
賃貸マンションの所有者が、もっぱら入居申込者の国籍を理由に賃貸借契約の締結を拒むことは、およそ許されないと述べ、賃貸人には不法行為責任が成立すると判断し、入居予定者の損害金請求のうち、慰謝料100万円と弁護士費用10万円の合計110万円の損害賠償を認めました。
なお、賃借人となる予定であった入居者の勤務先の法人に対しても、「本件賃貸借契約の成立が合理的に期待される段階まで両者の準備が進んでいたにもかかわらず,合理的な理由がなく本件賃貸借契約の締結を一方的に拒んだものであって、信義則上、原告会社が被った損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。」
と述べて、その責任を認めましたが、そもそも損害は発生していないとして、損害賠償の支払い自体は認められませんでした。
以上のように、賃貸人において、外国籍であることを理由として賃貸借契約を拒絶した場合に、万が一、その後に訴訟等の紛争に発展した場合は、裁判所において不法行為に該当すると判断されるリスクがあるということになります。このことを、貸主さんには知っていただきたいと思います。
したがって、賃貸物件の所有者としては、上記リスクがあることを認識し、入居審査においては、一律に国籍のみを理由とした入居拒絶と取られないように配慮し、もし入居不許可とする場合でも、収入や滞在期間や保証人の有無などを総合的に判断するように努めるべきといえます。
物流の「2024年問題」で期待される宅配ボックスの普及
2024年問題で宅配ボックス普及が待ったなし
2024年は宅配ボックスに注目が集まりそうです。国交省は昨年12月に、賃貸住宅を含む様々な住宅の、宅配ボックス普及支援策を取りまとめました。この背景には物流業界の「2024年問題」があります。
今年4月から、トラックドライバーの時間外労働に960時間の上限規制が適用されて労働時間が短縮されることで、輸送能力の不足が社会問題化すると言われているのです。
国交省の調査によると、届け先の留守による再配達の率は、2023年4月調査時点で11.4%にも上り、同省は物流の負担となっている再配達を、2024年度には6%まで減らすことを目標に掲げています。
置き配増加により盗難リスクの問題も発生
宅配ボックスが設置されていない住宅では、玄関などへの「置き配」が利用されています。株式会社ナスタ(東京都港区、宅配ボックスシェアNo.1)の昨年12月の調査によると、2023年に置き配サービスを利用したことがあると答えた人は67.3%あり、この数字は前年より6%増えています。コロナ前の2019年は26.8%でしたから、確実に置き配経験者が増加傾向にあることが分かります。
一方で、玄関などへの置き配で「トラブルがあった」と答えた人は21.1%と5人に1人の割合となっています。その内容は、「荷物が濡れた」「荷物が届かなかった(他人の家に置き配された)」などです。
ある賃貸管理会社によると盗難が疑われることもしばしばあり、防犯カメラを確認するなどの手間が増えている現実があるようです。また、消防関係者からは放火に繋がる可能性も指摘されています。
そこで、再配達荷物を減らす策として宅配ボックスが注目されているというわけです。令和5年3月に国土交通省住宅局が公表した「令和4年度住宅市場動向調査報告書」によると、宅配ボックスの設置率は、既存の戸建て住宅で17.6%、既存のマンションで50.2%、賃貸住宅で34.2%となっていますが、調査した地域が三大都市圏であり、サンプル数も多くないので、実態を正確に反映しているかは不明なところがあります。
全国の賃貸住宅での普及度は、この資料の34.2%よりも低いのではないかと個人的には推測しています。
埼玉県川口市では、2024年4月から市内で新築されるワンルームマンション(40㎡未満で15戸以上)に対し、宅配ボックスの設置を義務付ける「ワンルームマンション建築・管理条例」の改正案が昨年12月に提出されました。
他にも同様の条例が検討されている自治体もあり、他地域でも義務化が広がるかもしれません。
設置スペースの確保と費用が大きな問題に
宅配ボックスを設置するには、費用や設置スペース、設置後の管理など検討課題が多くあります。宅配ボックスは大きくわけて、ダイヤル式とデジタル式の二つがあります。ダイヤル式は10万円から60万円ほど、デジタル式は50〜100万円以上のものが多いようですが、収納数やサイズによって大きく異なります。メーカーや管理状況によっても違うのですが、全部屋数(利用世帯数)の20〜30%くらいの戸数分が必要なようです。
ダイヤル式は費用が安く、設置も比較的に簡単なようですが、SNSで利用者の声を調べると、「荷物が届いたことに気が付かない」「故障が多い」という不満も見られました。
しかし、比較的安価にオーダーメイド制作してくれるメーカーもあるようで、エントランスのスペースが小さくても設置できる可能性は高そうです。
デジタル式宅配ボックスは、電子制御で管理するタイプで暗証番号や非接触型キーなどで簡単に解錠が可能な点が便利と評価されています。オーダーメイドは無く、小型のものでも奥行き1m、横幅は1〜2mの設置スペースが必要になるようです。
国や自治体が設置費用を補助する動き
設置費用は国交省からの補助金が期待できます。
- 「子育てエコホーム支援事業」は補助額が1万1,000円(1戸当たり、住宅省エネ改修と併用工事のみ)
- 「住宅確保要配慮者専用賃貸住宅改修事業」は工事費用の3分の1(上限額は1戸当たり50万円まで。住宅確保要配慮者専用賃貸住宅に限る)などです。
補助金を出す自治体もあります。青森県八戸市では昨年12月から宅配ボックスの設置費用の3分の1(上限30万円)を補助する制度を始めました。他にも全国の自治体で独自に補助金を出す動きがあるようです。
また住宅ポータルサイト「アットホーム」が発表した、2023年上半期の「不動産のプロが選ぶ問い合わせが多かった条件・設備〜賃貸編〜」によると、宅配ボックスが6位にランクインしました。これは追い焚き機能(7位)、モニタ付きインターホン(8位)よりも上位です。
賃貸のターゲットである若年層を中心にネット通販が普及していて、宅配ボックスは人気設備から、あって当たり前の設備になる、との見方もあります。「2024年問題」などの社会的なニーズの高まりとともに、多くの入居者からも選ばれる設備として注目されているようです。
賃貸経営の収益向上とテナント・リテンションとは?
賃貸管理に初めて就いたとき先輩から「テナント・リテンション」という言葉を教えられました。大家様はご存じですか?
テナントは「借主」の意味で、賃貸住宅なら入居者さん、店舗や事務所なら事業者さんのことです。
リテンションとは「保持する」という意味で、訳すなら「借主が賃借する目的が快適に達成でき、かつ永く活用してもらうこと」となるそうです。
「これが賃貸管理の理想形だね」と先輩は説明したのですが、聞いていた私は「うーん」という感じで現実味がありませんでした。賃貸管理とは、クレーム処理や建物と設備のメンテナンスが主な仕事と思っていましたから、「借主の満足が重要」という考えにピンとこなかったのです。
賃貸部門は、仲介担当と管理担当と分かれているところが多いです。前に社内で「我々のお客様は誰か?」という議論になったとき、仲介担当は「当然にお部屋を探すお客様」と答え、われわれ管理スタッフは「もちろん大家さん」と答えました。同じ会社で働くスタッフが、それぞれ別のお客様に尽くそうとしているのは面白いと思いまし
た。
大家様と借主さんは利害が対立しているところがあります。一方は「なるべく高く貸したい」と思い、一方は「少しでも安く住みたい」と考えます。
一方は「なるべく経費は使いたくない」と思い、一方は「便利な設備や綺麗な空間がほしい」と考えるからです。
では、われわれ管理スタッフは、大家様の利益を代表する者として、利害関係にある借主さんと相対するべきなのか、と議論が煮詰まってしまいました。
その答えは「テナント・リテンション」にあったと気が付いたのです。大家様が賃貸経営で収益をあげる条件のひとつこそ、「借主が賃借する目的が快適に達成でき、かつ永く活用してもらうこと」なのですね。つまり借主の満足が大家さんの事業成功のひとつの条件となります。
となれば、大家さんの利益のために、大家さんのお客様の満足に尽くす、という考えに矛盾がなくなります(そうは言っても、クレームの現場に立てば、双方の言い分の間に挟まれて、理想通りにいかないことが多々あるのですが)。これが賃貸管理における「テナント・リテンション」の重要性です。
では、私たちの賃貸管理の、どこにテナント・リテンションの精神が宿っているのでしょうか?
たとえば「クレーム対応」という、賃貸管理の中でも重要な業務があります。普通に考えれば、現場で処理をして、借主がクレームを言わなくなったところで業務終了です。
しかしテナント・リテンションでは、このクレームの再発防止を考えます。トラブルが起きないことが借主の最善なわけです。もうひとつ、防ぎきれないトラブルの場合でも、解決させる過程で借主を「ここまでやってくれるか」と感心させる行動がとれないか、という課題もあります。
実際にトラブルが起こらなければ、トラブル対応力を知っていただけないからです。理想的な話ですが、トラブルによって借主さんから感謝されたら、それこそテナント・リテンションだと思います。
更新契約にも、テナント・リテンションの精神があります。私の会社の地域は、2年ごとに更新契約をする慣習ですが、普通に考えれば、郵便などで更新通知を出し、合意文書を取り交わし、更新料などの入金を確認して業務終了です。
しかし、良い借主さんほど、2年間、一度も交信の機会がない場合があります。家賃滞納はもちろん、トラブル元になることも、クレームを言うこともなく過ごしていただいた借主さんです。
このような借主さんには永く暮らしていただきたいですよね。更新契約という、せっかくの機会なので、2年間の感謝を伝えて、不具合や要望などを確認する時間とするのが理想です。
建物と設備のメンテナンスも、賃貸管理の重要な業務のひとつです。目的は、大家様の物件価値を、なるべく少ない費用で維持し、入居率と賃料条件を高く保つことですが、それには借主さんの満足が不可欠になります。
言い方を変えると、借主さんの満足があるから、入居率と賃料条件を高く保つことができます。定期点検で設備が不具合になる前に処置するのもテナント・リテンションです。
日常清掃で共用スペースを綺麗に保つのも、自転車置き場を整理するのも、エントランスを草花で彩るのも、すべて同じ考えに基づくものです。「賃貸管理にはテナント・リテンションの精神が理想形」という先輩の言葉が理解できるようになりました(現実は簡単ではありませんが)。
物件よって家賃やターゲット設定は異なりますから、一様に顧客サービスを最上にすることが正解ではないと思います。あくまでも、われわれ管理スタッフのお客様は大家様、という前提を忘れないで、借主さんに満足してもらえる賃貸管理を続けていきたいと思っています。
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