2024.06.09

2024年6月の賃貸経営管理ニュース

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正しい空室対策の3つのキーワードとは?

今月は空室対策の基本です。「いまさら」と思うかもしれませんが、場当たり的な手段を避けるためにも、基本を振り返るのは無駄ではありません。

空室対策を狭義で考えると「目の前の空室を埋める方法」と理解されるかもしれません。たしかに1年以上も空いている部屋なら、「何とか埋めたい」と考えるのは当然ですから、そのときに考えつく対策を講じることもあるでしょう。

しかし、正しい空室対策は長期で考えるべきです。目の前の空室をとりあえず埋めることではなく、一定期間の賃貸収益を最大にするための方法、と定義付けてみてください。そのためのキーワードを3つ解説いたします。

「稼働率」を把握すること

ひとつめのキーワードは「稼働率」。空室率より稼働率を重視します。空室率とは、10戸のうち2部屋が空いてたら「空室率20%」と計算します。2部屋が埋まれば100%になり、3部屋が続けて空けば70%に下がります。数値が極端に変わるので経営指標としては不向きです。

対して稼働率とは、一定期間(たとえば365日)に、全部屋がどれだけ賃料を稼げたか、という指標です。

年間の稼働率は、「各戸の各月の入居日数の合計÷(12カ月×戸数)」で計算できます。でも「各月の入居日数の合計」という計算が簡単ではありませんね。

たとえば101号室が、1月から10月まで入居していて、11月15日の退去から年末まで空室なら、入居日数の合計は、304日(1月から10月までの日数)+15日(11月の退去日)で319日となり、それを年間365日で割ると87.4%になります。

この計算を全戸でして総計すれば年間の稼働率が算出できます。面倒ですが、成績を正しく評価できなければ、効な改善策はみつかりません。その正しい成績を知る指標が稼働率です。

実力をただしく知ること

2つめのキーワードは「適正な賃料査定」。稼働率とは、この適正な賃料査定と相関関係にあります。

もし、適正査定よりかなり低い賃料で募集すれば稼働率が高くなるのは当然ですが、賃貸の総収入は増えません。適正査定よりかなり高くして募集したら、特別な理由がない限り稼働率は低くならざるを得ません。まず適正に査定された賃料を知ることが出発点になります。

たとえば募集中の部屋の適正賃料を100と査定したとします。同じようなライバルが近隣の地域で何部屋も募集中です。部屋を探しているお客様に限りがあるので、なにか特徴を打ち出す必要があります。そこで募集賃料を95にすることで、同じような物件の中で安さを打ち出して募集する。

重要なのは、実力が100のところを95で募集する、という点です。あるいは、募集賃料は100のままで、1~2カ月のフリーレントという募集条件とするのも選肢のひとつです。

また、賃料の1~2カ月分の予算で設備をレベルアップして、募集賃料は100のままで他物件と差別化して募集する。賃料の5~6カ月分のリフォームで他物件と一線を画して、募集賃料を105か110にする。何百万円もの予算でリノベーションして、賃料を120か130に上げて募集することも選択できます。

いずれにしても、現状の実力である100という適正賃料を正確に把握することと、対策後の成績を稼働率で正しく評価しなければ、この決断の良否を知ることはできませんね。

それをお客様は求めているのか?

3つめのキーワードは「マーケットを掴む」。マーケットとは、いまこの地域で どんな部屋が求められているか、ということです。

上で説明した、適正賃料より募集賃料を下げるとか、1~2カ月分のフリーレントサービスや設備のレベルアップ、もっと高額のリフォームやリノベーションという対策も、地域の需要と合っていなければ、良い稼働率に繋がらないでしょう。

このマーケットについては、じかにお客様と接触している不動産会社なら知っているはずですから、データなどを元に、ご一緒に検証してみてください。

具体的ノウハウは最後でよい

空室対策というと、「○○を○○したら部屋が決まった」という具体的なノウハウを期待されると思います。そのような情報は多く流れているので知ることは容易だと思いますが、大事なのは、それがオーナー様のマーケットで求められているか、ということと、出発点となる物件の実力が正確に把握できているかです。

そして、手段がいくつあっても、募集する部屋は限られていますから、どれか1つを決断するしかありません。それが良かったかどうかは、その後の数年の実績をみないと分かりません。その指標が稼働率です。この3つのキーワードも、ぜひ今後賃貸経営のなかに取り入れていただきたいと思います。

便利なはずのネット申込みが現場に混乱を?ほか

ネット申込みで便利になったはず⁉

賃貸住宅の入居申込みにオンラインが追加されたことにより、「とりあえず」とか「仮で」という気軽な申込みが増えています。結果として、希望する物件が見つけにくくなっていると一部で問題視する声が上がってきました。

入居申込みの手続きは、署名・捺印した書面で行われることが多かったのですが、コロナ禍もあり、数年前からインターネット上で可能なサービスが始まりました。入居希望者がネット上で入力した情報や進捗状況を仲介会社だけでなく、管理会社、家賃債務保証会社、家財保険会社などと共有することで、申込書提出から審査を効率化することが可能になりました。ある入居申込サービス運営会社によると、年間のネット申込件数は100万件を超えており、利用が急速拡大しているそうです。

こうした状況を受け、めぼしい物件を内見なしで仮申込みしたあとも物件探しを継続する入居希望者が増え始めています。仲介会社としては、物件が軒並み「入居申込済み」で留め置かれてしまい、すぐに入居したいお客様に物件紹介をするために、「社員は朝から晩までパソコンと向き合い物件情報を探し続けています」(都内仲介会社・経営者)と、現場の苦労を語ります。

さらに、借主の退去告知を2ヶ月前とする契約条件が増えたため、手頃な物件が「入居中」で内見できないことも多く、仮申込の増加に拍車がかかっているようです。ある調査によると、入居申込みの3割以上がネット経由になっているそうです。

すぐに賃貸経営に影響が出ることはなさそうですが、仮申込がさらに増加していくと、現場の混乱が拡大する可能性があります。注意深く状況を見守っていく必要がありそうです。

省エネ性能表示で高断熱賃貸に注目

今年4月から住宅の省エネ性能表示制度が始まりました。この制度は、 住宅販売・賃貸事業者に対し、建物の省エネ性能を広告などで公表することを求めるものです。消費者は、この情報をもとに、省エネ性能を比較検討しながら、住まいを選ぶことができるようになります。新築の賃貸住宅についても省エネ性能の表示が努力義務となり、オーナーも対応が求められます。

怠った場合は国交省によって勧告・公表・命令を受ける可能性があります。省エネ性能は、断熱性能とエネルギー消費量の2つの指標で表されます。それぞれ星の数が多いほど高性能であることを示します。省エネ性能の高い賃貸住宅が認知される様になり、入居者にとって光熱費の節約につながる点を訴求できれば、将来的には空室率の低下や賃料アップが期待できそうです。

北海道ニセコ町では、冷暖房費が月5,000円程度に抑えられる高断熱・高気密の賃貸マンションが登場しています。この物件は、家賃が周辺相場より高めにもかかわらず、入居者から好評で満室となる人気ぶりと地元紙に報じられています。

「政府は2050年の脱炭素社会実現に向け住宅の省エネ化を推進しています。この流れを受け、省エネ性能の高い賃貸物件への融資に金利優遇などの措置を講じる銀行も出てくると予想しています」と大手ハウスメーカーの幹部も語ります。国や自治体からの補助金も増えそうで、制度や融資を上手に活用できれば、入居者ニーズを捉えながら、オーナー負担を軽減しつつ資産価値向上を図ることができるかもしれません。

家賃が25年ぶりに上昇

物価高騰の影響で賃貸住宅の家賃が上昇しています。2023年の消費者物価指数(CPI)では、賃貸住宅の家賃を示す指数は前年比0.1%の上昇を見せ、実に25年ぶりのプラスと全国紙で報じられました。

しかし実態は、建築費増加によって新築物件の家賃が上がり、市場全体を引っ張っているようで、既存の入居者に家賃値上げを求めるのはハードルが高いという声が多く聞かれます。

大阪で複数の物件を持つ法人オーナーによると、「清掃会社から値上げ要請があり、社内で吸収するのも限界に達したため、入居者に一律1,000円の管理費値上げを通知したが凄まじい反発があった。驚いたのは個人だけでなく法人契約者からもかなりの反発があったこと。実質賃金の上昇が世間一般に拡がるまで家賃の値上げには手が出せそうもない」と語ります。原状回復工事の単価も上昇していますので、「入退去のタイミングで値上げに踏み切るしかない」と語る管理会社もありました。

地域ごとの違いはありますが、賃貸経営の根幹をなす家賃の全面的な上昇が期待できる局面はもう少し先のようです。

退去を防ぐための予防メンテナンスが大切です

春と秋の繁忙期の合間は、入居者さんの満足感を高めることと、建物・設備のメンテナンスが、管理スタッフにとって重要な仕事になります。私たちの現場も満点ではありませんが、メンテナンスの理想形についてレポートします。

家の不具合で引っ越したいと思う人が多い⁉

アパートや賃貸ビルには、住宅設備や共用部の施設、外壁や貯水槽、外階段、屋上など、様々な部位があり、それらはすべて「老朽化・故障」という宿命を負っています。40年50年の賃貸経営で修繕や取替えが不要な部位はほとんどない、といって過言ではないでしょう。

この場合、壊れた時に交換すればよいのか、壊れる前に察知して修繕する方がいいのか、ということになりますが、私たちの部署では予防医学と同様に、予防メンテナンスという考え方が重要と認識しています。それによって、建物設備の寿命の延長、修繕費用削減、入居者さんの不満蓄積による退去を防げる、と考えているからです。

リクルートが2021年9月に行った入居者アンケートでは、「引越したいと思った瞬間は?」という質問に対し、「住んでいる家に不具合が起こったとき」という回答が2位でした(1位は入学や転勤などのイベント)。具体的には、「老朽化で給水管が破裂」「給湯器が壊れてお風呂に入れなくなった」といった訴えが並んでいて、想像以上に、設備故障による不便が転居の理由となっていることに驚きます。これらは防ぐことができる退去といえます。

このような退去が続くと、入居状況が悪くなるので募集賃料を下げる。すると新しい入居者の質が下がる可能性があり、オーナーの収益の悪化を招き、物件力を上げるための投資ができなくなる、という悪循環に陥ります。この循環を逆にして好転させる試みが、賃貸経営の収益を良くすると思っています。

修繕計画をもつ家主は4分の1以下

さて、具体的な予防メンテナンスの1つめは「長期修繕計画と大規模修繕工事」と考えています。木造、鉄骨、コンクリート造など、それぞれの建物・設備の部位ごとに、鉄部塗装は〇年、貯水槽の部品交換は〇年、外壁塗装、屋上の防水は〇年、のように耐用年数が想定できます。

この想定の元に修繕計画を用意することで、定期的に目視検査をして、工事の最適なタイミングを決めることができます。工事費用を想定して資金が準備できる、という利点もあります。

では、一般の家主さんは、長期修繕計画にどのような考えを持っているのでしょうか。2017年3月に国土交通省住宅局が行った調査報告によると、修繕計画を作成している家主の割合は22.8%、「作成していない」は44.4%、「わからない」は32.8%でした。修繕を計画実施しない理由として、「資金的余裕がない」が28.1%、「必要性が理解できない」が22.6%と続きます。

興味深い回答に「自身の考えで実施しない」とあったので、その考えを確認したところ、「必要なときに修繕すれば十分」が52.8%、「実施しなくても入居率は変わらない」が34.7%、「実施しても家賃水準を維持できるわけではない」が15.3%でした。

建物設備の修繕は、壊れた時に行えばよく、それは入居率や家賃には影響しない、とお考えの家主さんが多いようです。この辺りは、私たちの認識とは違うな、と感じています。

トラブルを早期発見するために

2つめの具体策は「定期巡回」と考えています。修繕計画を立てても、それは予定に過ぎませんから、実際に工事するかどうかは、現場の状況を見て、実施を伸ばしたり前倒しすることになります。さらに、修繕計画には含まれないような細かな部位も、現場の巡回点検によって異常を見つけることができます。

3つめは「日常清掃」です。生活スペースが綺麗に整頓されていることが、入居者さんの満足感を高めるのはもちろんですが、共用部分やエントランスなどで、定期巡回項目にもないような小さな変化を発見することもできます。

まとめ

人の身体で、疾患の早期発見や、病気を予防する生活習慣が大切なことは誰でも知っているでしょう。しかし、その理解度不足や経済事情などで実行できていない実態もあると思います。予防メンテナンスも同じではないでしょうか。

まず、建物設備の部位ごとの耐用年数を知り、その修繕のための費用を把握して、その資金の準備計画を考えるところからスタートするのが良いのかもしれません。私たちの現場も満点ではないのですが‥‥。