- 2025.01.07
2024年の振り返りと2025年の展望を語り合う
今年も、2024年の賃貸住宅業界を振り返りながら、2025年の展望を語ってもらいました。
A氏:40代前半。業界20年に近いベテラン記者。事件取材が得意で週刊誌など幅広く執筆。
B氏:30代中盤。テクノロジー系ニュースに強いネットメディア記者。
C氏:20代後半。経済雑誌で不動産・建設を担当する記者。
人手不足が全国で深刻化、業務を縮小するケースも
A氏:今年はどこで取材しても「人手不足」の話を聞いたね。ある地域では人手不足で管理会社が仲介業務を止めてしまい、まるごと大手チェーンに委託するケースが増えているよ。
B氏:それって、上半期に話題にした賃上げ問題とも関係していそうですね。不動産業界の賃上げ率は76.0%と全体平均より低く、特に地方の中小企業では人材確保は大変になっています。
C氏:地方ではまだまだ家賃の値上げ交渉すら難しい地域もあり、売上を伸ばして人件費に回すまでの余裕がなく、人も採用できない。ところで、チェーン展開している企業はどうやって人手を確保しているんでしょう。
A氏:チェーン店は都市部で一括採用して転勤で回しているらしい。でも、これって中小企業には真似できない手法だよね。結局、採用力のある大手企業に仕事が集中していく構図が少し進むのかな。
B氏:採用力のある企業に仕事が集中する一方で、地方の中小企業は人手不足で業務縮小を余儀なくされる。これは業界構造を大きく変えかねない動きかもしれません。
A氏:自分が不動産業界を取材し始めたときは就職氷河期の時代だったし、人手不足で悩む声などなかった。まさか、採用が経営課題の中心になるとは考えもしなかったな。
C氏:これから時短勤務やリモートワークなどで働き方を柔軟にしたり、業務を外部委託したり、いろんな工夫が必要でしょうね。すき間バイトなどを使う会社も増えるでしょう。賃貸オーナーもITツールの活用などで管理会社の業務効率化に積極的に協力して、人手不足時代の賃貸経営に適応していく必要がありそうです。
半導体バブルは継続も期待と不安が入り混じる
A氏:半導体工場の影響って、今年も全国的に注目されたよね。千歳市にも取材に行ったんだけど、もう4000人以上が工場建設に関わっているんだ。市役所と不動産会社が協力して、住宅を確保しようとしている。
B氏:新千歳空港から見える巨大な工場、すごいですよね。でも、意外と住宅建設は進んでないみたいですね。
A氏:実はね、千歳駅前の土地を多く所有している地主さんがいるんだけど、売る気がないんだって。だから、不動産会社も投資家も、恵庭や苫小牧まで開発を広げているんだよ。
C氏:ラピダスは政府が後押ししてできた新しい会社ですからね。工場がちゃんと動くのか、製品は売れるのか、まだ分からない部分が多い。宮城の大衡村では、台湾大手のPSMCが工場建設を取りやめて、アパートを建てちゃった投資家が困っているという話もある。だから、慎重になるのも当然かもしれません。
A氏:TSMCの熊本進出、すごい影響が出ていて、工場のある菊陽町や隣接する大津町では単身者向けマンションの家賃が20%以上も上昇した。しかし、熊本市内ではシングル向けは0.8%しか上がっていないのに、工場エリアでは『TSMC相場』なんて言葉も出てきて、市内平均を大きく上回る家賃水準になっている。第2工場の建設も決まって、当面は需要が続きそう。
C氏:地域の発展は歓迎すべきことですが、急激な変化にインフラ整備が追いついていないということは課題ですね。不動産業界としても、持続可能な開発という視点が重要になってきそうです。
物流危機で家具付き賃貸に注目が集まる
A氏:トラック業界、今年は大きく変わったね。ドライバーの残業が960時間までに規制されて、人手不足が深刻になっている。宅配の再配達も11.1%もあるのに、国交省は6%まで下げろって言うし、現場は大変みたいだよ。
B氏:引っ越し料金も上がる一方ですよね。都内の単身引っ越しなら近場でも10万円超えが当たり前。繁忙期なんて見積もりすら断られるって聞きます。地方でも業者選びができないくらい値上がりしているみたいです。
C氏:そんな中で家具家電付きの賃貸が増えているのは面白い動きです。大手不動産会社が都内で始めた高級物件は、家賃26万から65万円。外国人が9割くらいですが、確かな需要があるそうです。
A氏:外国人の長期滞在者とかデジタルノマドをターゲットにしているんだよね。パナソニックも家電の定額サービス『ノイフル』を始めて、首都圏で2200室まで広がった。引っ越し時の家電の廃棄問題にも対応できるし、今のニーズにピッタリだよね。
B氏:20代30代の若い人にも人気がでそうです。物流が大変で引っ越し代も高いから、『持ち運ばない暮らし』はこれからもっと注目されるでしょう。
C氏:賃貸住宅業界にとってはうまく使えばビジネスチャンス。ただ、全部の物件を家具付きにはできないでしょうね。立地や家賃で需要は変わってくるし、オーナーさんがどう差別化するか、戦略が大事になりそうです。
巧妙化する不動産詐欺、若者と高齢者を狙い撃ち
A氏:今年も色んな事件があったな。まずは住宅ローン詐欺の話からいこうか。約120人から33億円超。規模がすごかったよな。
B氏:街頭アンケートで6600人分もの個人情報を収集していたというのが衝撃的でした。『税金は高いと感じますか』『年金対策は?』といった、一見普通のアンケートで情報を集めていたらしく。しかも、ターゲットを20~30代の収入のある層に絞っていた。
C氏:集めた情報から融資を受けられそうな人を選んで、不動産投資目的なのに居住用と偽って申請させる。ローンのうち実際の物件代は差し引いて、残りは購入者に返していて、数千万円単位の金を手にした人もいました。
A氏:結局、不正に手を貸してしまった人はどうなる?
C氏:おそらくは虚偽の住宅ローン申請として、金融機関から一括返済を迫られるでしょう。信用情報が傷つくので二度と住宅ローンは使えないでしょう。人生設計は大きく崩れますね。
A氏:もう一つ、認知症の高齢者を狙った不動産詐欺も深刻だった。アパート1室の『55分の6』の持分だけを販売するなんて、聞いたことない。
C氏:ええ。一般の人には理解しづらい『持分』という概念を悪用していましたからね。1部屋の『55分の6』なんて、普通は考えもしない商品設計です。
A氏:つまり、簡単に言うと、1つの部屋を複数人で分けて所有するってことだ。例えば、300万円の物件を55個に分けて、そのうちの6個分を売る。でも実際の相場からすると、その6個分の価値なんて30万円もしないはずなのに10倍前後の高値で認知症の高齢者に『毎月、家賃が入ります』と言って売るわけだ。しかし、実際には他の共有者全員の同意がないと売却すらできない。逮捕された不動産会社では80歳以上の高齢者約9万人分の名簿を持っていたとされる。マニュアルまであって、認知機能の程度まで確認するように指示していたとも聞くよ。
B氏:この2つの事件から見えてくるのは、不動産取引の安全性確保の重要性です。特に管理会社の役割は重要になってくると思います。資産を持つ高齢者を狙った犯罪は賃貸住宅業界にとっても他人事ではないです。
A氏:結局、一番大事なのは『人』だよな。管理会社がオーナーの身近な相談相手になることで、こういった犯罪を未然に防げる可能性もある。管理会社の役割はますます重要だ。
実は、賃貸住宅業界に理解がある?石破総理
A氏:10月に石破政権が誕生したけど、賃貸住宅業界との関係が意外と深かったんだね。
B氏:そうですね。実は石破さんは賃貸住宅対策議員連盟の会長として長年活動してきました。過去には、災害時に被災者に賃貸住宅を貸し出す「みなし仮設住宅」の制度にも関わったそうです。家賃滞納者への問題やサブリース問題など不動産業界には難題が多いので、何か一つでも取り組んで欲しいですね。
A氏:年初の地震に続いて豪雨災害もあり、2度も被災した能登半島では住まいの確保が深刻な問題になっている。いち早い復興のために政治の力を結集して欲しいね。しかし、2025年は大きな転換点になりそうだ。
B氏:人手不足はもっと深刻になりそうですね。トラック運転手の労働時間規制も厳しくなるし、引っ越し料金はさらに上がるかも。
C氏:地域格差も広がりそう。半導体工場がある地域は特需が続くけど、地方都市の人口減少は加速する。空き家問題も深刻化の一途です。
A氏:でも、ピンチはチャンス。デジタル化や省エネ住宅の需要は高まるし、業界の再編も進むかも。海の向こうでは不動産王トランプさんがまた大統領になる。とにかく変化に備えるために現場を丁寧に取材して、情報発信をしていこう!
賃貸借契約の中途解約を制限する条項は有効か
今回は、賃貸借契約における中途解約を制限する特約の有効性について、裁判例をもとに解説いたします。
借主の中途解約の場合、残存期間賃料を違約金として支払う特約は有効か?
賃貸借契約書では、借主の中途解約を認める一方で違約金の条項が設定されている場合があります。よく見られるのは、中途解約の申入れは●ヵ月前までとした上で、「予告期間が●ヵ月に満たない場合は賃料及び管理費の不足月数相当額を賃貸人に支払うものとする。」といった条項です。これについては裁判例でも「暴利行為として公序良俗に違反するなどの特段の事情のない限り上記特約は有効である」としています(東京地方裁判所平成22年3月26日判決参照)。
では、「借主が期間満了前に解約する場合は、解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料・共益費相当額を違約金として支払う。」のような条項が設定されていた場合、この全額を請求できるのでしょうか?
この点が問題となったのが、東京地方裁判所平成8年8月22日判決です。事業用の賃貸借契約ではありますが、裁判所の判断事例として参考になります。これは契約期間が4 年間のところ、開始から10ヵ月で借主から解約の申し出があったため、貸主が残存期間の3年2ヵ月分の賃料相当額を請求しました。
裁判所は、「約三年二ヵ月分の賃料及び共益費相当額の違約金が請求可能な約定は、賃借人である被告会社に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから、その効力を全面的に認めることはできない。(解約日から)一年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり、その余の部分は公序良俗に反して無効と解する。」と述べました。
この裁判例から読み取れるのは、中途解約の違約金は「申入れから貸主が次の賃借人を募集して入居に至るまで必要と考えられる期間(概ね6ヵ月~1年程度)が相当である」ということです。
賃借人の中途解約を禁止する特約は有効か?
民法617 条と618 条を要約すると「賃貸借の期間を定めた場合でも、貸主や借主の一方又は双方に期間内に解約できる権利があるときは、建物の賃貸借では解約の申入れの日から定められた期間を経過することによって終了する。」と規定しています。
したがって、契約期間を定めた賃貸借契約で、かつ、期間内に解約する権利が与えられていない場合には中途解約は認められないということとなります。
土地の賃貸借契約で、この点について判断した最高裁判例があり(最高裁判所昭和48年10月12日判決)、「賃貸借における期間の定めは、当事者において解約権留保の特約をした場合には、その留保をした当事者の利益のためになされたものということができるが、そうでない場合には、賃貸人、賃借人双方の利益のためになされたものというべきであって、期間の定めのある賃貸借については、解約権を留保していない当事者が期間内に一方的にした解約申入れは無効であって、賃貸借はそれによって終了することはない。」と述べられています。
建物の賃貸借契約では最高裁の判断はありませんが、東京地方裁判所平成23 年5月24日判決は、「賃貸借契約において、借主に対し賃貸借期間内の解約を禁止する特約が付されている場合、借主は、約定又は法定の解除事由が生じているときを除き、賃貸借期間満了前に一方的に当該賃貸借契約を解除することはできず、貸主がこれに応じた場合に限り、解除できると解するのが相当である。」と述べています。
この事案では、賃借人が契約期間約1年4ヵ月を残して退去したのですが、中途解約が認められない以上、仮に建物を占有使用していなかったとしても、残存期間の賃料の支払いはしなければならないと判断しました。もっとも契約期間満了前に新たな借主が見つかり賃料等を得たり、当該物件の管理維持に要する費用の支出を免れたりしたようなときには、その分は差し引かれることとなります(前掲の東京地裁判決参照)。
ただし、この判決事例の賃貸借契約期間は20 年間と長期だったので、残存期間が約1年4ヵ月でも中途解約は不可と判断された、ということに留意が必要です。もし、賃貸借契約期間が2~3年と短期の場合は、残存期間が半年から1年を超える期間のときは、中途解約を制限する条項が公序良俗に反するとして、賃借人は契約に拘束されず、違約金6ヵ月分程度で途中解約が認められる可能性が高いと考えられます。
なお、居住用の賃貸借契約の借主は個人(非事業者)が多く、消費者契約法の適用を受けるので注意が必要です。消費者契約法における賃貸借契約の留意点については、また回を改めて詳しく解説いたします。
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