2024.01.06

2024年1月の賃貸経営管理ニュース

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2023年を振り返り2024年の展望を語り合う

今年も、週刊誌やビジネス誌に執筆するライターのA記者と、不動産業界向け新聞のB記者、不動産ネットメディアの編集を手がけるC記者の3名で2023年の賃貸住宅業界を振り返りながら、2024年の展望を語ってもらいました。

資産高騰が不動産投資ブームに冷や水

A:中堅建築会社UBMの倒産が世間を騒がせたね。

B:小規模のRCマンションの建設工事で急拡大した会社です。個人投資家向けに投資用不動産を販売する複数の会社から建築を請け負っていましたが、急な倒産で工事現場73カ所がストップして投資家周辺を青ざめさせました。

A:建築資材の高騰で赤字状態の現場も多いうえに、架空の取引で信用低下した挙げ句の倒産のようだな。最近の工事会社の与信管理も弱いだろうから、この手の話題は増えるかもしれないな。投資家オーナーさんは、物件の購入時には用心したほうが良さそうだ。

2025年LPガス料金に法整備が

C:LPガスの料金に国からメスが入りそうです。賃貸住宅向けLPガスの販売では、ガス事業者が給湯器などの設備を無償設置して、その費用をガス料金に上乗せして利用者から回収する商慣行があるとされていましたが、ガス料金の高騰や取引内容の不透明さに関して、2022年だけで消費者センターなどに2140件も苦情が寄せられていたようです。事態を重く見た経産省が禁止する方針を打ち出しています。

A:料金への上乗せを禁止した法令を準備中で、違反した事業者には罰金が科されると言われている。国は2027年度に予定していた法整備を前倒しして、2025年には完了したいようだ。

C:私が取材した神奈川県の賃貸オーナーは給湯器だけでなく、エアコンやインターホン、エレベーター内カメラまでガス会社がサービスしてくれたと言っていました。これが料金の高騰につながっていたとしたら、利用者から不満もでるでしょうね。

当局が「タワマン節税」対策強化した背景

B:禁止と言えば、「タワマン節税」に対する国税庁の対策が強化されています。タワーマンションの相続税評価は市場価格の約2割程度と低く設定されていたため、富裕層に人気の節税手段でした。しかし、今年6月に国税庁はマンションの相続税評価の計算式を変更し、評価額を市場価格の6割以上に引き上げると発表して大きな話題になりました。

C:新しいマンション評価は2024年1月から開始される予定です。この変更で資産家の間で相続対策としての駆け込み贈与が増えているとも言われていますが、これも過剰な節税と見なされれば、後になって追徴課税の対象になるかもしれません。

A:きっかけになったのは一昨年の最高裁判決だけど、この時は国税当局が12億7,300万円と評価したマンション2 棟を3億3,370万円で相続していた。追徴課税は3億3,000万円にも上ったね。

C:「タワマン節税」は政治家もやっている節税方法だから、将来も大丈夫と富裕層向けセミナーで言っている人もいたし、都内のコンサル会社は「タワーマンション節税」で商標登録までしていました。当局も本気にならざるを得ない状況だったのかもしれませんね。

半導体バブルは2024年も加速へ

A:2023年も半導体バブルは継続したね。

B:それどころか加速しています。昨年は熊本県が有名でしたが、今年は北海道千歳市で国産半導体企業ラピダスの工場新設が決定して、すでに賃貸住宅の家賃が急上昇しています。半年で3割近くも家賃が上がり、それでも借り上げられていく状態のようです。

C:北海道には総額5兆円もの投資があって、3,000人から4,000人が工場で働くとか。人口が増えて、彼らが金を落とせば何倍もの波及効果が期待できます。新築アパートの着工も増えていて、ハウスメーカーはさぞ喜んでいるでしょうね。

A:それが、そうでもないみたいだ。とにかく地場の工務店の建築費が安すぎて太刀打ちできないらしい。すでに大手の一角は何年も前に北海道を撤退していたくらいで、「北海道はハウスメーカー受難の地です」と言って、取材した部長さんの目が潤んでいたよ(笑)

B:実際に工場が稼働するのは2025年の春ですから、本当に盛り上がるのはこれからでしょう。北の半導体バブルに注目しておきます。

C:2023年9月に国土交通省が発表した基準地価によると、全国平均の地価は前年に比べて1.0%も上昇しました。インバウンド観光ブームの頃の2019年が0.4%でしたから、上昇率だけなら今年が上でした。

A:住宅地の地価は前年比で0.7%も上がっているが、商業地はそれを上回る1.5%も上昇していたね。ホテル用地の取引が活発だが、取材した札幌の商業不動産の関係者に聞くと、一番盛り上がっているのはドラッグストアの用地らしい。

B:私も聞きました。外国人の爆買いといえば家電でしたが、今は医薬品などに興味が移っているようです。日本で市販されている医薬品の質の高さに目を付けて箱ごと買っていく人が目に付きます。地方都市の目抜き通りは大型のドラッグストアが目立っています。ただ、大阪などの大都市では下火になっていて、今は中古のブランドショップが人気になっているようです。

晴海フラッグの分譲が142倍の人気

A:東京で話題を集めていた晴海フラッグに作られる賃貸住宅が公開されたね。

C:東京オリンピックの選手村がマンションとして改修された集合住宅ですね。多くは分譲マンションになって売り出されていますが、シェアハウスやシニア住宅も含めた賃貸住宅が合計1487戸もあります。立派な大浴場がありますし、コピー機や防音電話ブースもあるコワーキングオフィスも本格的でした。

B:施設内に保育園もあって、街をそのまま作っているようでしたね。

A:それにしても分譲部分の倍率がとんでもないことになっているよね。周辺相場よりも1 〜2割以上も安いから、当たって即転売すれば1,000万円以上も儲かると言われている。平均倍率は15倍で、最高倍率は142倍というから富裕層や投資家の間では万馬券みたいな扱いになっているよ。昭和30年頃の「あこがれの団地公募」の抽選を思い出すね。

B:古いですねー(笑)。晴海フラッグから徒歩圏の築地市場跡地には読売ジャイアンツの新球場ができるという噂もあります。知り合いの不動産会社の社長は晴海フラッグが当たったら転売する予定だったのが、ジャイアンツが来るなら、売らずに事務所にしようと考え直したらしいです。

C:もし当たれば…という話しですよね(笑)その築地市場跡地の入札は正式には来年春頃に決定する予定ですが、年明けには何らかの動きがありそうで、都心の不動産業界でも最も注目されている話題ですね。

ゲーム配信者、悪質ホストの入居審査は?

A:ゲーム配信者向けの賃貸住宅が話題になってる。

C:ゲーム配信は若者を中心に世界的に人気があって、なかには1億円以上も稼ぐ人がいるそうです。

B:ゲーム配信者向けの賃貸住宅は、ネット回線を充実させるだけでなく、防音性を高めたり、照明の位置を調整できたりするらしいです。

C:やはり防音性能がとても重要なようですね。実はゲーム配信者は夜中に活動することが多いうえに、対戦相手やゲーム内の敵と、かなり口汚くやり合う文化があるようで、外部への音漏れ対策には気を遣うようです。

B:管理会社によると「下の階から一晩中、暴言が聞こえてくる」というクレームがあって調べたら、入居者がゲーム配信者だったらしいです。配信者は数時間連続でゲームをやるのは当たり前らしく、管理会社にとってゲーム配信者は注意すべき存在になりつつあるらしいです。

A:要注意といえば、若い女性に掛け飲み(ツケ)させるホストが社会問題化しているね。不動産業界では昔からホストの審査は厳しかったけど。

B:夜中の帰宅で音の問題や、夜逃げの不安もありましたからね。

C:何百万円もの借金を抱えた女性が売春行為をするなどトラブルが多く警察や行政も対策に乗り出しました。

B:女性が売掛金を返せなければ、ホストが立て替える仕組みです。追い込まれたホストが女性に過酷な取り立てをすることになりますし、店に支払いができなくて最終的に夜逃げに繋がることも珍しくないそうですね。早く正常化に向かって欲しいです。

C:人手不足は管理会社でも深刻のようですね。入居者に専用のスマホアプリを入れてもらって連絡業務の効率化をはかったり、AIの活用なども進むかもしれません。

A:先ほどの晴海フラッグでも、オフィスやジムなどの利用予約は専用アプリを使うみたいで、アプリの利用用途が増えてきたみたいだ。この活用はオーナーにとっても良い傾向だよね。世界を見回してみると、中国では不動産バブルが崩壊しつつあると言われているし、住宅ローンが8%近くなっているアメリカの不動産不況も凄いらしい。我が国への影響も避けられないだろうから、2024年は波乱の年になりそうだ。注意深く取材を続けよう!

繁忙期に満室にするための10のチェックリスト

今年も繁忙期に入ろうとしています。対策はすでに昨年暮れから始まっているわけですが、満室に向けて手抜かりはないか、10のチェックリストにまとめてみました。

退去予定を少しでも早く知る

一年で解約が多いのは3月です。解約通知は1カ月前という契約が多いので、借主がギリギリに通知すると、退去を知るのが2月に入ってからになります。そこから原状回復工事、募集条件を決め、リフォームや設備の交換となると、募集期間が短くなっていきます。

契約期限が3月の借主には早いうちに「更新の確認」をする、全世帯に3月退去の可能性をお尋ねする、3月に限って早期通知してくれた方に何らかのサービスを与えるとか、いくつかの手段が思い付きます。

自身の物件の実力を正確に知る

賃貸物件の実力は、地域における需要、物件タイプ、築年・構造・付帯設備などの諸条件、同時期に募集しているライバル物件の有無、といった複合的な要素で構成されます。誰でも、自分の持ち物は高く評価しがちなので、そこは気を付けるべきですが、だからと言って過小評価すると機会損失になります。

まず、ありのままの状態で「正しく評価する」ことが出発点になります。

募集条件に特徴をもたせる

つぎに、募集条件に「特徴」を持たせましょう。特徴とは、お客様が物件を決める時の「理由」です。「自分の物件は、立地や築年や間取タイプなど、特に特徴などない」という想いがあるかもしれませんが、どんな物件でも特徴は作れます。「相場より数千円安い」のも特徴です。「全部屋にエアコンが付いている」のも特徴です。

まずは、ネット上で見つけてもらうために、どんな特徴を持たせることができるでしょうか。

ネットで物件を100%アピールする

どんな特徴を持たせても、お客様が見つけられなければ、内見の確率の半分以上を失うことになります。物件の特徴を100%アピールできるように、WEBサイトに登録してもらう必要があります。

もし、写真撮影に自信がおありなら、ご自身で撮って、不動産会社さんに提供してもいいと思います。動画編集がご趣味なら活かせますね。キャッチフレーズも大事です。説明文で、特徴のすべてを言い尽くすように依頼してください。

内見の数を増やすという意識

入居までの手順は、反響→内見→申込→契約です。反響があっても内見につながるとは限らず、内見しても申し込むとは限りません。繁忙期のうちに空室を埋めるには、内見の機会を増やす意識を持つことも必要です。

ネット掲載を「見つけてもらうため」と書きましたが、「興味を持ってもらう」という目的も追加しておきます。興味の対象は貸室だけでなく、共用部分や外観、そこに至る道程や地域のすべてになります。お客様に「行ってみたい、見てみたい」と思わせましょう。

外観と部屋に至るまでの見栄えを整理する

お客様が内見に訪れる時、最初に目にするのは外観です。つぎにエントランスから部屋に至るまでの通路や階段を歩きます。この段階からお客様の評価が始まっていますから、良い点数がとれる工夫をしたいのです。少なくとも、郵便受けや通路などにゴミが落ちているなどのマイナスポイントは除去しておきましょう。

お部屋を気に入ってもらう工夫は?

内見に訪れたお客様に「この部屋で暮らしたい」と感じてもらう工夫をしましょう。玄関のマットやスリッパ、部屋の印象を明るくする照明、生活感を演出するカーテンなどをセットするのもひとつです。大家さんが決めた「特徴」に気付くように、メッセージなどを掲げるのもアイディアです。

定期的に空気の入れ替えをする

人が暮らしていない締め切りの部屋には空気のよどみや異臭を感じます。せっかくネット反響から内見につなげて、外観やアプローチで点数を稼ぎ、スリッパやカーテンでイメージアップしても、この空気と臭いという失点は勿体ないですね。

日祭日や内見予約のある平日は、事前に空気を入れ替えて、玄関ドアも少し開けておく手数も無駄にはならないと思います。

オーナーからメッセージ・プレゼント

お部屋内に、大家さんからのウェルカムメッセージがあると、お客様の気持ちは和むことでしょう。さらに、「このお部屋に暮らす方にプレゼント」として、たとえ数千円の商品(引っ越しグッズやトイレットペーパー類とか)でも、ライバルとの差別化になります。

交渉に備えて裁量を与えておく

営業スタッフはお客様に即決してもらいたいと考えます。しかし、気に入っていても「検討する」と決断を避けたり、「家賃は〇〇円にならないか?」と交渉するお客様もあります。もし不動産会社にある程度の裁量があれば、「いま決めれば、責任を持って、大家さんから許可をとります」と決断を誘導できます。

最初から「サービスありき」ではいけませんが、もし、ある程度のサービス幅があるなら(あるいは決めておいて)、不動産会社に委ねてみてはいかがでしょうか。